誰が舛添候補を支持しているのか? 

確かに舛添候補を支持する声は不思議と聞こえてこない。ネットで舛添候補の支持を表明する意見を探すのは非常に難しいし、街頭演説も安倍総理が応援演説に来た時以外は人だかりも少ないようだ。それでもマスコミの事前調査で独走していることに違和感を感じている人は多いようだ。
組織票だと言う意見もあるが、公明票100万は磐石として、自民党のコアな支持者は田母神支持の人も多く磐石とは言えない。マスコミの事前調査を見る限りでは、無党派層で舛添候補が優勢との結果が出ており、この効果が大きいと想定できる。
ただ「私の周りに舛添がいいなんて言う人いない」と言う人も多いだろう。確かに私の周りにもいないので、その違和感はわかる。しかし、普段から政治の話題を積極的にする人は、左右はっきりとした主張をする傾向がある。選挙直前になると、普段あまり政治の話をしない人が選挙の話を結構するので、その機会にいろいろ話を聞いてみるのがいい。けっこう「舛添がまあマシ」みたいな意見を聞くので、私はマスコミの事前調査そのものには違和感を感じない。
もっとも個人的には「舛添がマシ」にはアグリーしかねる。ただ、他の候補に×を付ける気持ちはわからなくもない。私は都民ではないので、消去法を採ってまで誰がマシかまでは考えるつもりはないが。

もはや日本では政権交代は起きないのか?

 自民党が強い求心力を見せる中、日本ではもはや政権交代は起きないのでないかとの錯覚さえ覚える今日。最近は自民党が確りして、それをチェックする役として共産党あればいいという意見さえ見かけるのであるが、それはどうも腹が落ちないという人もいるであろうか、政権交代の可能性を前提とした野党再編についての意見もいろいろ散見される。

リベラル結集の困難さ

 民主党自民党と変わらない意見の議員が多数いて、自民党と変わらない政治をしたから失敗したという意見は多く目にする。ただリベラル派だけで集結しても展望は開けないと考える。
そもそもリベラルな有権者の多くは既に、政権交代に期待せず野党専門の政党に期待している。そもそもリベラルに関しては有権者の質の悪さに伴うリスクが大きい。

  • 極度に妥協を嫌い、他党と妥協して一部政策を実現しても評価しないどころか激しく批判する。
  • 支持者がわすかな政策の違いを気にするため、他党との連携が拘束される。
  • 高福祉低負担を望むため、政権に耐えうる政策の遂行に障害が生じる。

 単にリベラルな政策を標榜するだけでなく、リベラルな有権者の考え方を変えるようなリーダーシップのある政治家が出現しない限りは、このリスクは打開できないだろう。

保守第2党の困難さ

 一方で、民主党の中にも保守派は多いので、彼らが離党して維新やみんなの党保守新党を作るべきとの意見も散見されるが、これも展望は開けないだろう。
左派を排除して自民党に対抗し得る保守第2党を作る試みはこれまで何度も試された。まず、自民党が幅の広い保守主義を網羅しているために、自民党との差別化に苦慮する。これまで試された差別化はだいたい以下の2つに収斂する。

 自由主義路線は都市部でしか勝てないということろで壁にぶつかる。極右路線は「右の共産党」化して他党との連携に障害が生じて壁にぶつかる。

 結論から言うと、リベラル結集も保守第2党もうまく行かない。自民党に対抗し得る勢力は作れないであろう。結局、民主党で失敗したと言いながら保守からリベラルまでを包括した政党でしか対抗できないのか?
もう一度この方法でチャレンジするしかないのではないか? ただむやみに野合しても失敗するだけなので、以下の方法を試してみるべきではないか。

  • 無理に新党を考えず、ゆるやかな連合体による選挙協力を視野に入れる。
  • もう少し焦点を絞り、左右で極端な主張をする政治家はお断りする、右で言えば歴史修正主義に与する政治家は入れない、左で言えば非現実的な政策を求める有権者に迎合してしまう議員は入れないと言った決めが必要ではないか

 それでも政権交代は難しいだろう。自民党の失政が続く。日本に良質なリベラル派の有権者が育つ。この2つが同時に起これば可能性はなくはないと考える次第。

労働規制の緩和は経済成長を生むのか

 経済成長のためには規制緩和が重要と言うのは、規制緩和が成長産業を生む、さらにその成長産業へのマンパワー異動を進めるために労働規制の緩和が重要という2つの意味を持つ。これが自由主義の重要な黄金律だ。しかしこれを常識として受け入れるにしては、我々の成功体験が乏しい。本当に正しいのか、実体経済で耐えうるセオリーなのかよく考えてみる必要がある。
 成熟産業から成長専業への人の移動は経済成長に寄与するのかという根本的なことと、その為の施策としての労働規制の緩和がマンパワーの成長専業への異動に寄与するのか、2段階で考えてみたい。

成熟産業から成長専業への人の移動は経済成長に寄与するのか

 成長産業があれば、そこにマンパワーが異動させるための雇用流動化政策は重要だ。しかし、「成長産業不在」又はあっても「プアな産業だけが成長している」という状況では、雇用流動化策は教科書通りの成果を上げられてない。もし雇用の受け皿となる成長産業がないまま解雇を容易にする規制緩和をやれば、失業率が上昇するだけだ。一時的に人員過剰の企業業績は回復するが、失業率の上昇がむしろ実態経済を疲弊させる。
日本の場合は後者で、規制緩和によって雇用の受け皿として増えたのが流通業やタクシーといった低賃金の業種であった。製造業からこういった業種に労働者が移動することで、日本人の賃金水準は押し下げられた。失業率の悪化という最悪の事態は避けられたが、経済成長には貢献しなかった。
つまり成長産業は付加価値が高いものでなければ経済成長に寄与しない。アメリカでは製造業からIT産業と金融業への異動が経済成長に寄与したと言われている。もっともその金融業はリーマンショックで疲弊し、ITの発展はホワイトカラー中間層の雇用を奪ってゆくので、この経済成長はホンモノであったかどうかは評価が分かれるが、日本よりは成功体験があるのは確かだ。

解雇を容易にすることで成熟産業から成長専業への人の移動を促せるか?

 衰退産業で埋没しているマンパワーを成長専業に異動させることで、経済成長の原動力になるという考え方は正しい。しかし一般的には企業が辞めさせたいような人材が、成長専業の担い手とするのは現実的ではない*1。もちろん、流通業やタクシー業であれば彼らの受け皿になり得るが、それでは経済成長にならないのは既述の通りである。
 衰退産業の衰退企業でも、その企業は優秀な人材をなんとか残し、そうでない人材を整理解雇したいと考える。この企業マインドが合成の誤謬を生み、自由主義の黄金律を機能不全にしている。解雇を容易にする労働規制緩和は、この誤謬を助長するリスクが高い。本来自由主義の黄金律を機能不全にする誤謬に神経質にならなければならないはずの自由主義者の多くが、何の疑問もなく労働規制の緩和の推進を是とするところが不思議である。彼らは自由主義者の顔をしているだけで、マクロでなくミクロの代弁者なのではと疑いたくなる。
 政府は解雇を容易にする単純な労働規制緩和でなく、衰退産業から優秀な人材を吐き出させる政策を考えるべきだろう。例えば、今までは雇用を維持することでインセンティブを与えていた制度融資を改め、社員の条件を特定しない希望退職を実施した企業にインセンティブを与えるような制度融資にシフトさせる等の政策が考えられる

*1:家電メーカーではかなり優秀な人材が辞めさせられているので、なんか活用できないのかと個人的には思うが、彼らを生かす成長産業が日本にはなく、外国企業しか受け皿がないのが現状。

規制緩和は経済成長につながるのか?

 アナリストや学者は、異口同音にアベノミクスは第3の矢にかかっている。そのためには規制緩和が重要と言う。しかし規制緩和をするとなぜ経済成長するのか、誰も言及しない。もはやセオリーなので議論の余地がないということなのだろうが、この部分すっきりしないままなのは私だけではないと思う。
 例えば今回話題になった薬のネット解禁。これをやることで、どう経済成長に繋がるのか?これまで薬局薬店だけだった販売チャンネルが増えれば販売量が増えるのか?基本的に薬の需要はそんなことで需要が増えるものでもないと思う。
 ネットでの購入が定着している本やCDが、従来の販売チャンネルにネットが加わることで総販売量が増えたという話も聞かない。むしろCDなどはネットの普及が市場規模を縮小させている

タクシーの規制緩和は、規制緩和論者が意味を理解していない

 薬のネット解禁は、例えとして矮小過ぎかも知れない。今回のアベノミクス第3弾の発表でも、細かい政策をたくさん並べているだけでインパクトに欠けると評価は芳しくない。もう少しインパクトの大きい事例で、規制緩和のもっとも酷い失敗例として槍玉に上がるタクシーの規制緩和を敢えて取り上げたい。
 タクシーの規制緩和については、ワンコインタクシーなどが出現したもののタクシー需要は喚起されず、乗務員の給与体系が歩合制で事業者の固定費リスクがないため、増車のチキンレースが始まり、囚人のジレンマに陥って業界全体が疲弊してしまった。
 もっとも酷い失敗例と言われるタクシーだが、規制緩和論者はこの問題に反論も反省もしないことが、彼らの信頼感を失わせている。私は規制緩和論者が総括から逃げているというより、理解できていないという感じがする。もう少し丁寧に言うと、規制緩和論者がシナリオを理解していないのと、シナリオに無理があるという2つの誤謬が問題をわかりにくくしている。
 運輸部門はもっとも規制が多い業種と言われているが、それは経営体質が脆弱な企業が多く、保護が必要だと思われていたからだ。この分野の規制緩和の意味は、競争を激化させ、競争力の弱い事業者には退場してもらい、余剰となった運転士が成長専業に移動することにより経済成長に寄与するというものだ。
 ところが、規制緩和論者の多くが、それを理解せずに、タクシー業界が規制緩和により切磋琢磨し、新たな需要を開拓し、経済成長の牽引役になるような理解をした。そもそも経営基盤弱いのは事業の収益性が低いからであり、そのために保護されているような業種は経済成長の牽引役でなく、人材の排出源となって経済成長を支えるものと考えるべきなのであるが、それを理解している人はほとんどいなかった。
 もちろんシナリオにも無理がある。タクシーの運転士が成長産業に移動して、経済成長の担い手になるなんて同考えても非現実的だ。タクシー業界に限らず、規制産業や衰退産業の人材はプアで、職業訓練をしたからといって成長産業の担い手として期待するのはムリがある。この辺は机上の理論として規制緩和=経済成長が正しくても、現実にはそうならないボトルネックの一つであり、きちんと解決策を考えないと、他の分野で規制緩和をやっても失敗する。

LCCは経済成長の牽引役か?

 タクシーという明らかな失敗例を挙げて規制緩和に疑問を呈するのはいささか不公平であろう。同じ運輸部門でも成功時事例として挙げられている航空分野について考えたい。
 航空自由化は世界の潮流であり、今さら抵抗もできないが、単に航空業界だけ考えれば、航空運賃が下がり、航空会社の社員の給料が下がった。むしろデフレを加速させた要因に過ぎない。これによって国内旅行が活発化し、観光産業が潤って初めて経済成長の牽引役として認められる。ところが、これについて具体的データが余りなく、本当に経済成長の牽引役なのか疑わしい。規制緩和論者は積極的にLCCの経済効果を調査しアピールすべきではないか。

まとめ

 つまるところ、規制緩和論者は、規制緩和は経済成長に繋がるという机上の理論を具現するための突っ込みが足りない。失敗事例や成功事例の検証が足りない。成功事例のアピールが足りないの「3ない」状態ではないか。
 反規制緩和論者も、バスの規制緩和がツアーバス事故を招いたとか建築確認民間解放が姉歯事件を招いた等、規制緩和が招いた安全やモラルのリスクを強調するきらいがあり、規制緩和は経済成長を生まないのでは?という疑念に基づいた突っ込みを余りやらない。
結局、規制緩和は経済成長には寄与するが、国民生活の安全上負の側面があるというような模範解答に収斂してしまい、議論が深まらない。
 今後は、規制緩和論者も反規制意緩和論者も、徹底的に考えてもらって、以下のような議論が進むことを期待したい。

  • 規制緩和の経済効果についてはもっと疑って検証する。
  • 規制緩和が上手く行かない原因をもっと追究する。
  • 規制緩和が有効なTPO を明らかにした上で、哲学があり、的が絞れた政策を実行する。

 付け加えるが、私は反規制緩和の立場に立って規制緩和を潰したいのではない。規制緩和をセオリーと信じて慢心な学者や評論家、マスコミの鼻を一度へし折って一度反省してもらってから、もう一度立ち上がって地に足がついた規制緩和を考えて欲しいのだ。

安倍政権は経済優先を決めたとしても、その中での主導権争いと対峙しなければならない

 以前、穏健保守(自由主義者)VS右翼の主導権争いと述べたが、日本維新の会の橋下共同代表の慰安婦発言により安倍総理が右派色を出し難い環境になったことから、安倍政権は当面経済優先を打ち出すだろう。
 アベノミクスは様々な経済政策を標榜する人がとりあえず支持するように巧妙に出来ており、これが高支持率の源泉とも言える。リフレ派はリフレ政策が支持されているから安倍政権の支持率が高いと信じているきらいがある。確かにマイナーであったリフレ政策への関心が高まったのは事実だが、それでいきなり支持される代物ではない。実は第2の矢である財政出動、長らくエコノミストや中央マスコミから目の仇にされ、自民党も財政規律と自由主義を優先し、支持者を裏切ると知りながらも削減を続けてきた公共事業を堂々と謳うことができたことにより、古くからの支持者が回帰した効果が大きい。これが安倍政権の高支持率の土台になっている。それでいながら第3の矢で成長戦略を謳うことで、今までであれば第2の矢を批判しそうな新自由主義者をも満足させている。

 それだけであれば、これまで最も猛威を振るっていた財政規律論者や財務省が批判しそうなものであるが、彼らはアベノミクスを頭から批判するのでなく、アベノミクスを徐々に変質させて財政規律路線に舵を切らせようと虎視眈々とタイミングを計っている。一部の前のめりの識者は「アベノミクスの第4の矢は財政再建だ」等と口走っている。
 現状ではほぼ敵なしで、あらゆる経済政策を期待する人たちから支持を集めている。安倍政権がアベノミクスで成果を出しているから支持率が高いというのは少し前のめりの評価で、実際はまだ部分的な成果しかなく期待選考の中で、ほぼ全方位評価を得られるスキーム作りに成功したことが高評価になっていると考えた方がいい。
 しかし全方位評価というのは曲者で、徐々に利害対立が表面化するリスクを孕んでいる。最大のリスクは、虎視眈々とタイミングを狙っている財政規律派である。彼らが台頭すれば増税により第1の矢の金融政策は効果を失い、第2の矢の財政出動は色褪せ、アベノミクスは完全に反質する。第3の矢もうまく、第1の矢、第2の矢と組み合わせされているようにも思えるが、規制緩和はほどほどにやらないと競争を激化させデフレを加速させるリスクを孕んでいる。
 安倍政権が経済優先を決めたとしても、その中で様々な勢力の綱引きが存在し、それによって安倍政権の命運が左右される。少なくとも全方位評価を得られるのはあと僅か(なんとか参院選までは引っ張りたいのだろうが…)で、間もなく敵を作りそれによって支持率を落とす覚悟で、どの矢を大事にするのか明確にする選択を迫られるであろう。

安倍政権は安倍カラーを打ち出せるのか?対米ロビー活動の是非と併せて考える。

アメリカ議会調査局のレポートと韓国ロビー

 9日のNHKニュース9では、アメリカ議会調査局が安倍政権の歴史認識に懸念を示す文書を取り上げると同時に、その背景にある韓国ロビーの動きを伝えた。
今の日本の世論の空気の中では「アメリカも怒ってます」みたいな報道をしても、視聴者の心理拒絶で何も伝わらなかっただろう。日本国内の左派が弱体している中で、日本国内の安倍総理歴史認識を批判する声を報道してももはやニュース価値はない。韓国外交の強かさをありのまま伝える報道は、安倍内閣の高支持率に浮かれ慢心気味の保守的な国民世論に程よいショックを与えたと思う。 

日本はいったい何をロビーするのか?

 9日のNHKのニュースの後、「日本もロビー活動」をすべきだという意見がtwitter等で噴出したが、ではそう言っている人たちは何をロビーすべきと考えているのか、150文字の中でははっきりとわからない意見が多いが、大別すると2つの意見がある。
 一つは従来からの政府見解に基づくロビー活動。つまり「日本は常に真摯に歴史に向き合ってきた」という事実を広く喧伝。時に韓国が感情的な対応をしても、日本は常に冷静に対応してきたことをアピールするやり方だ。
 もう一つは、従来の政府見解を改め、「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」とアピールするやり方だ。
 前者のロビー活動なら今すぐできる。菅官房長官のコメントも前者の立場に立ってのものだ。ただTwitterを見る限りでは、後者を期待する意見が圧倒的に多いように思えるが、そのようなロビー活動は可能なのだろうか?

「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」といったロビー活動は可能か?

 仮に安倍総理が従来の政府見解を改めると決断した場合、外務省が猛烈な抵抗をするだろう。外務省は鳩山内閣の時には左側に壁を作り、基地の県外移設に抵抗したが、アメリカの国益とぶつかる問題に対しては右側にも壁を作る。総理大臣とて自由に動けない。
 それがダメなら非政府組織がロビー活動を行う方法が考えられる。ただ現状韓国ロビーが闊歩し、アメリカの国論が定まっている状況で無鉄砲に「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」と主張しても、それは韓国にとっては「アメリカの対日観を悪化させる美味しいネタ」になり、思う壺である。
かつて、作曲家のすぎやまこういち氏やジャーナリストの櫻井よしこ氏ら有識者でつくる「歴史事実委員会」が米ニュージャージー州のローカル紙に「女性がその意思に反して日本軍に売春を強要されていたとする歴史的文書は発見されていない」という内容の意見広告を掲載した。これはロビー活動というよりパブリック・ディプロマシーで、もちろんロビー活動と並んでパブリック・ディプロマシーは重要な行動ではあるが、成果があったとは言いがたい。この意見広告には安倍総理をはじめ、現内閣の4閣僚が賛同者として名を連ねており、むしろ安倍総理ナショナリスト安倍内閣には国粋主義者が多く含まれるといった議会調査局のレポートの根拠に利用されしまった。言い方は悪いが、日本国内の保守派の自己満足のための行為が、外交的には餌食になっただけの惨敗である。
では、そうしたらいいのか?正直私には妙案は浮かばない。深入りしない方がいいとしか言いようがない。

韓国のロビー活動も万能ではない

 韓国のロビーが成功しているのは、以下の条件が揃っているからだ。

  • アメリカは日本と戦争をした国であり、日本が戦前の体制を正当化するのはアメリカ人にとっても不愉快である。
  • アメリカは保守派、リベラル派にかかわらず人権に敏感である。

 よって靖国問題従軍慰安婦問題での韓国ロビーは元々スタートラインからして優位である。逆に日本が「A級戦犯は悪くなかった」「従軍慰安婦は捏造だ」というロビー活動をやろうとしたら、スタートラインから不利なのだ。
 ただ韓国ロビーがすべて上手くいっている訳ではない。例えば「日本海の呼称問題」。韓国は日本海を東海(トンへ)と呼ぶようロビー活動を行っているが、アメリカは併記か日本海単独呼称に留まり、東海単独呼称は実現していない。竹島問題もアメリカは余計な争いに首を突っ込みたくない意識が強く、韓国ロビーは成功していない。李明博前大統領の竹島上陸に関しては、アメリカは日本を冷静に対応したと評価する一方、韓国側が余計なトラベルメイクをしたとの悪印象を持っているぐらいだ。
 韓国がロビー活動を開始しているか定かではないが、日本が集団的自衛権を行使することに関して反対するロビー活動も失敗するだろう。なぜならば、アメリカがそれを望んでいるからである。いくら韓国ロビーが強いといっても、アメリカの国益に反するものまでは覆らない。

安倍カラー集団的自衛権と防衛費増額に特化するしかない。

 河野談話の見直しは相当困難な問題で、下手に首を突っ込むと自爆しかねない。靖国参拝は以前のブログで言及したが、任期最後に1度だけ強硬すれば行けるくらいに考えた方がいいだろう。
 安倍総理は経済政策に特化しろという声も強い。ただそれでは、自民党が下野して一番苦しかった時も熱心に支持してくれた支持者に申し訳ないという気持ちもあろう。
 であれば、安倍総理はコアな支持層である保守層とアメリカの利害が一致する、集団的自衛権と防衛費増額に特化するしかない。アメリカは極東で米軍が担ってきた役割の一部を日本に肩代わりして欲しいと考えており、これを実現すれば安倍総理アメリカの心象は格段に高まる。ここまでできればアメリカにも「最後くらいは靖国参拝を黙認してあげよう」という空気が生まれるかも知れない。
もちろん憲法9条改正や防衛軍創設と言ったほうが、国内向けには成果のアピールになるが、アメリカは現行憲法でも集団的自衛権の行使は可能と見ており、実でなく名を取る為に汗をかくのは国内向けのパフォーマンスと見做して評価してくれないだろう。この辺はあまり無理をしないのが身のためである。 河野談話を見直さなくても、憲法改正ができなくても、保守層はこれだけで十分に安倍総理を評価し、満足するはずである。

左派が自滅した今、焦点は穏健保守(自由主義者)VS右翼の主導権争い

 脱原発運動の盛り上がりを過信したり、左派にとって自民党より多少はマシなはずの民主党政権を右派と一緒になって潰したり、左派の自滅はお粗末としかいいようがない。もう彼らにはチャンスは巡ってこないだろう。焦点は穏健保守(自由主義者)VS右翼の主導権争いに移る。
 現時点では、両方とも安倍政権を支持している。前者は安倍政権に、安倍カラーを封印して経済優先の政策を継続することを期待し、後者は参院選の前か後かは議論はあるが徐々に安倍カラーを鮮明にして欲しいと期待する。この両者の綱引きが始まっているのである。

参院選に持ち込まれる主導権争い

 選挙結果は安倍自民の圧勝で決まっているので、選挙結果を以ってどちらが勝った負けたという判断はできない。選挙戦の争点設定や選挙期間中に安倍総理が何を多く語ったかで決まる。当然安倍総理も周囲のいろいろな人に相談しながら決めることであり、その綱引きは既に始まっている。
 現段階では、穏健保守層が安倍政権が徐々に右傾化を始めていることに警戒心を強め反転攻勢に出ているところであろう。この中でアメリカの動きも無視できない。アメリカの意向を受けて政権に圧力をかけるエージェントのような組織や人が日本には多数あるからである。

不確定要素の大きいネット選挙

 不確定要素が大きいのはネット選挙の解禁である。このことによって、有権者が直接、実際には右翼的な政策を語った方がネットは盛り上がるし、穏健保守なんてのは今は安倍政権を支持していると言っても右翼層ほど熱心に支援しない。ネット選挙解禁は右翼の利益になる可能性が高い。
 ただネット選挙が単純に安倍総理の右傾化の後押しになるかは断定できない。右翼層は左翼や中韓を批判するのは得意だが、現実的なライバルである穏健保守層や安倍総理の右傾化阻止を企むアメリカを批判するのは苦手である。右翼層は真のライバルの存在に気付かずに、相変わらず既に弱体化した左翼(民主党に左翼のレッテルを貼って叩く行為も含む)や、中韓叩きに邁進してしまい、シャドーボクシングに終わる可能性があるからである。

今後のアジェンダ

 今後は以下のテーマで、右翼と穏健保守(自由主義者)の意見が対立。安倍総理は両者の支持を得ることで高い支持率を維持したいところだが、両者にいい顔をしようとすると、「育休3年」みたいなピンボケな政策が出てくる。さすがに曖昧にできないテーマも多く、今後綱引きが活発になるだろう。

  右翼 穏健保守(自由主義) 左翼
外交 中韓に毅然たる外交 Win-Win、米国に迷惑をかけない アジアと友好
貿易 国益第一 自由貿易が是 保護主義
女性 伝統的家族感 女性の活用 女性の活用
外国人労働者 排斥 積極的活用 労働者の賃金が下がるから反対

 ただネット言論がこの現実に追いついていない。右派は自分と違う意見の人を何でも左翼に仕立て上げて、55年体制時代から使い古されたロジックで批判し、左派は自滅して存在感が希薄化した自省もないまま右翼と穏健保守を一緒くたにし批判。今のところ穏健保守(自由主義者)が右翼を警戒し批判する言説に見るべきものがあるというのが現実。左派には期待しないが、少しは穏健保守(自由主義者)を上手に批判できる右翼の意見を聞きたいところだ。