結局、低付加価値/低賃金労働を誰が担うのか?

 先日の朝まで生テレビでの少子化問題の議論で、よくフランスの例が良い例として引き合いに出されていたが、フランスは低付加価値/低賃金労働を移民に担わせているのである。その辺の負の部分が噴出したのが、先の暴動なのである。
 生粋のフランス人の労働者としての質を向上させ、もっと高付加価値/高賃金に誘導するという政府の意図がある。フランスに限らず、アメリカや欧州の政策には、露骨には民族問題になるのを回避しようとするが、このような意図が少なからずある。
 日本が移民を受け入れるか否かは、それ自体が一つの政治的テーマであって、話すと長くなるので割愛するが、もし移民を受け入れないのであれば、以下の方法を取るしかないのである。

  1. 国民の誰かに低付加価値/低賃金労働を負わせる。
  2. 非効率覚悟で低付加価値労働にも高賃金を払う。
  3. 低所得者を政府が制度的に優遇する。

日本の戦後モデル

 戦後の日本は1と2のハイブリッドであった。女性に低賃金労働を負わせながら、企業内で年功序列賃金を導入して低付加価値労働に対しても高賃金を支給してきたのである。女性は家庭内で扶養されるころによって格差不満が大きく表面化することはなかった*1。政府の低所得者優遇策はそれほど充実していた訳ではないから、戦後の日本は社民主義であったというのは間違いで、企業が社会的責任を負う*2ことによって再配分を実現していたのである。

*1:例外的に母子家庭などが日本モデルの被害者であった

*2:初期は労働運動の過激化や社会主義思想の蔓延を防ぐために単純労働者の高給化を進めた背景があったが

戦後モデルの崩壊 低付加価値労働の低給化 フリーター

  1. それがバブル崩壊と経済のグローバル化により企業が年功序列システムや低付加価値業務に高給を支払い続けるのに耐えられなくなった。
  2. 男女雇用機会均等法の施行。或いは企業自身が能無し男を終身雇用するリスクを考えたら女性を活用した方がプラスになることに気付いた。
  3. 労働組合の弱体化。或いは変質。(工場の海外移転等によりブルーカラー中心からホワイトカラーへ比重が移った。)

 これらの要因により、90年代以降低付加価値労働者の低給化が進んだのである。フリーター問題の影に隠れてしまうが、流通業外食産業など正社員から非正規社員への置き換えによって人件費抑制をはかったが、製造業やその他サービス業の多くで、低付加価値正社員の低給化が進んだのである。政治の議論の場ではフリーターのみ問題にされるが、この低賃金正社員の増加こそ問題であり、これがフリーターの増加やニートの増加の元凶なのである。
 実施に低賃金化が進んだ職種を挙げると

工場労働(組立等の単純業務)、タクシー、トラック等の運転士、店頭販売ルートセールス、保守点検業務

 マニュアル化され新人の即戦力化が容易で、経験年数と仕事の成果が必ずしも比例しない仕事が多い。このような職種に対して、企業は容赦なく人件費を切り詰め、人材使い捨ても厭わない方向を示したのである。

現代日本の格差社会の構造

1 経営者
エリートビジネスマン
成功者
勝ち組
2 その他サラリーマン(勝) →勝ち組 年収1000万円へ道
3 その他サラリーマン(負) →社内競争敗北
出世できず年収500万円で頭打ち
→希望喪失
4 単純労働者(正社員) →最初から勝ち組への挑戦権すらない
一生年収300万円代
→希望喪失
5 フリーター(1) いきなり1を狙うモラトリアム型 成功できる人は稀有
6 フリーター(2) 最初から負けが決まっている
4になるのが嫌な逃避型
7 フリーター(3) 4にもなれない低能型 →一生年収200万円未満
8 ニート 現実逃避又は敗北経験者

90年代フリーターが増大した訳だが/3種類のフリーター

 上記の表に示したように、90年代にフリーターと呼ばれる層が拡大したが、フリーターになる理由は以上のように3つに大別される。最初はフリーター(1)かフリーター(3)のパターンが多かったが、正社員になろうにも最初から勝ち組への挑戦権すらない単純労働の低賃金労働の求職ばかりなので、フリーターを続けるフリーター(2)のパターンが増えた。基本的に勝ち組への挑戦権のある正社員を求めているのであるが、狭き門で適わないのである。

2000年代ニートの登場

 2004年ブログ界流行語大賞となった「働いたら負けかなと思ってる」という言葉がニートの気持ちをよく具現している。フリーターを長期間続けていた若者の多くが、「実は自分たちが産業界に都合のいい低賃金の単純労働者なんだ」ということに気付いてしまい、働くのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。そして正社員になれない(ならない)層の中にも、このフリーターの馬鹿馬鹿しさに嫌気を指して、働くことを止めてしまった。
 ではなぜ勉強するなり、職業訓練を受けるなりして、勝ち組への挑戦権のある正社員を目指さないのかという疑問は残るが、結論から言えば勝つためのスキルを身につけていないので意欲が湧かない、或いは恐れている、或いは能力的乖離が大きすぎて諦めているのである。結局、そんなに頑張らなくても幸せになれた昔の日本を信じて思春期を過ごしてしまったので、対応ができないのである。その辺は長くなるので明日に。

アメリカの80年代モデルが参考に

 90年代に日本で起きた労働環境の劇的変化は、80年代のアメリカモデルの焼き直しである。当時国際競争力を失い双子の赤字に苦しんでいたアメリカはITという高付加価値産業と流通業という低付加価値産業を勃興させて復活したのである。競争力を失った製造業で働いていた人間を再教育してIT等の高付加価値産業に異動させ、またこれまでマンパワーに依存しそこそこ高付加価値労働者が必要であった流通・外食などの産業を徹底的にマニュアル化し、単純労働者でも可能な業務とし、移民等の受け皿にしたのである。そして従来その分野にいた労働者をより付加価値の高い産業に異動させたのである。これが労働経済的な切り口でみた80年代アメリカ復活のシナリオである。

実は効率の悪い改革後の日本モデル

 90年代改革を経て、低付加価値業務の人件費コスト低下によって企業側の効率は上昇しているように見えるが、マクロ的には非常に効率の悪い状況が生み出されてしまった。日本は識字率はほぼ100%で、低レベル層の労働者は極端に少ないのである。現在低付加価値/低賃金労働への従事を余儀なくされている人の多くは、簡単な職業訓練によって高付加価値/高賃金へ異動させるのが可能なのだが、高付加価値産業育成の不十分さや、移行システムの不備によってそれが為されていない。そして何より表題の「低付加価値/低賃金労働を誰が担うのか」という問題が未解決なのである。
 ただいくつか解決策はある。

  1. 高付加価値産業への労働者の移道により、低付加価値労働への供給労働人口を枯渇させ、市場メカニズムにおいて所得を向上させる。但し製造業において競争力低下や物流コスト上昇による各種産業への悪影響のリスクあり。
  2. 高齢者の活用。(但し高齢者を低レベルの職業に使うことに関しては日本の伝統的価値観と齟齬する。)
  3. 外国人労働者の受け入れ。(文化的軋轢。治安悪化のリスクあり)
  4. 時代を元に戻し、低付加価値労働に対し企業が責任を以って待遇を与える。(かなり非現実的)

今やるべきことは

  1. 高付加価値産業の育成
  2. 公的職業訓練の実施
    企業が未訓練者の訓練を行ってもすぐ離職してしまい、結局即戦力の中途採用にシフト。社員教育にコストをかける企業がバカを見る状況になりどの企業も教育をしなくなってしまった。仕方ないので公的職業訓練を充実させる。