ブッシュ演説が話題にもならないのはなぜか。

 来日中のブッシュ米大統領は16日午後、京都市内で政策演説を行う。ホワイトハウス
が公表した演説原稿によると、大統領は「日米同盟はアジアの安定と安全の支柱だ」と
重要性を強調、日本の戦後の民主化を踏まえ、アジアでの「自由と民主主義」の拡大に
強い意欲を表明。北朝鮮に核放棄の履行を求め、中国に対し人民元改革や市場開放を促
す。大統領は演説を通じ「自由」の価値観の重要性を強調。これを共有する日本や韓国、
台湾を評価し、中国や北朝鮮などと一線を画す。
 大統領は演説で、日米関係について「自由が日本との友情の基盤」と指摘。戦後、日
本は「自らの文化と歴史」を反映した民主主義を構築し、「自由が繁栄と安定へつなが
る確実な道だという先例になった」と述べ、自由の拡大の重要性を強調。台湾について
も、「一つの中国」政策を確認したうえで「世界で最も重要な貿易競争力を持った国の
一つ」と評価する。
 これに対し中国については「自由や開放を求める国民の正当な要求に応じれば、近代
的で繁栄し、自信にあふれた国家に成長する」と、信教や表現の自由などを容認するよ
う求める一方、経済的には「中国市場への均等な機会の提供が必要だ」と指摘。▽対中
貿易赤字の削減▽知的財産権保護の強化▽柔軟性のある人民元改革が「実施されるべき
だ」と強調する。
 また、「自由に背いているアジアの国」としてミャンマー北朝鮮を例示。北朝鮮の
核問題について「朝鮮半島非核化に関する6カ国協議での合意を実施すべきだ」と強調。
ミャンマー軍事政権を「圧政」と指摘して批判する。

 「自由」という言葉を36回も使用して、自由と民主主義が世界の普遍的価値でることを強調!

今回のアメリカ大統領の訪日については、極めて注目度が低い上、イラク派兵問題や在日米軍基地再編問題、アメリカ産牛肉輸入再開についても、日本が渡す手土産が先に公開されているようなもので、期待感のかけらもない会談になってしまった。その辺の批判は多くの方がされていますので、ここでは割愛します。(とりあえず小泉政治に疑問を持つブロガーのリングには登録します。http://stopthekoizumi.ring.hatena.ne.jp/)
 さらに話題にならないのがブッシュ演説である。ブッシュのポリシーであるアメリカ民主主義の輸出という信念は見事に日本人の心情とずれており、ヒットしないのである。
 90年代まで日本人の中で現実保守派あるいは穏健保守派という層が民族保守化してしまい、もはやアメリカの言う自由や民主主義に疑念を持つようになってしまったのである。日本の保守層の中にも依然親米派というのもいるが、多くは戦略的に親米であった方がいいとうだけであって、思想的には反自由、反民主主義に近い。
 一方で、日本人で民主的な考えの人はほとんど反米的である。民主主義の価値の普遍性は認めるが、民主主義を押し付けるのは懐疑的である。結局、日本人の中にブッシュイズムの支持はごく少数である。その少数の中に小泉首相がいるのかも知れないが。
 もっとも小泉首相アメリカ的な自由主義・民主主義の価値観を共有しているのか甚だ疑問で、親米保守主義者にありがちな戦略的親米主義者かもしれない。
 ただ私は日本で勢いを増す民族保守主義反自由主義、反民主主義的な部分を国際社会で露呈することは極めてマイナスであると考えている。民主主義自体、様々な言論の自由を認め、当然その中に反民主主義的な言論も含まれるパラドックスを抱えているのではあるが、そのような言論はあくまでも少数派でなくてはいけない。
 民主主義が西欧で生まれたもので、日本の伝統・文化と溶け合わない部分は多少あるが、それをことさら強調して民主主義より別の価値観の優位性を主張するのは、民主主義より超越するイデオロギーがあるなら別だが得策ではない。あくまでも消化する努力をすべきであろう。
 これまでの西欧中心の史観においては、自由主義と民主主義を受け入れた国のみが経済発展を勝ち得て、先進国になれると考えられてきた*1。今、中国という国がそれを受け入れない(資本主義のみ受け入れたが)まま、先進国入り直前の位置にいるのである。アメリカを始め、西欧各国としてはホンネでは面白くない話である。
 ここで日本が民主主義や自由主義を否定する思想を露呈したらどうなるでらろうか。アジア特殊論が再燃*2し、どうせ異質な連中と商売するのであればマスの大きい中国と付き合いましょうという結末が待っているだけである。

*1:更に依然はキリスト教も含まれていたが、日本が先例を破った。

*2:日本の民族保守主義者=反中派なので、中国と一緒にされるのは極めて不愉快であろうが、西欧から見れば同じようなものとして扱われる。