そもそもなぜ格差が問題なのか?

 貧困層の拡大による治安の悪化というところまでは深刻化していないし、いったい何が問題なのか?
 実は一番の問題は中流階級の没落の問題なのである。日本は戦後中流階級の形成により高度消費社会を実現してきた。1億2千万人の殆どが、マイカーや耐久家電製品の購入が可能という社会は極めて有意義であった。日本の製造業はボリュームの大きい国内市場を背景に多品種の製品の製造を可能にし、同時に国際競争力を維持できたのである。
 日本でマイカーや耐久家電製品の購入ができない世帯が増えたらどうなるか。しかも人口減少も追い討ちを掛ける。それこそ中国への輸出に依存せざるを得なくなり、中国メーカーとの競争のために第2次産業従事者の賃金の切り下げに迫られるというパラドックスに陥る危険性すらある。
 一時的には低賃金労働者を踏み台に業績回復に成功した日本の企業であるが、格差社会が進行し中産階級が没落した場合に最も影響を受けるのが企業なのである。高度経済成長期に日本の製造業が従業員賃上げを積極的に行い生活改善に応じてきたのは、巡り巡って国内に確固たる市場を形成しなければならないという経営者のエスプリがあった。
 今の厳しい経営環境下、同じことはできないにしても、今の経営者にもそのエスプリは再認識してもらいたいものである。