高給単純労働者が存在することは是か非か? その2

 総務省が、地方現業公務員の賃下げ勧告に動くようだ。
 3ヵ月ほど前に「高給単純労働者が存在することは是か非か?」id:kechack:20070414 というエントリーを書いたが、どうも現業公務員の高賃金が面白くない人が多いみたいで、総務省地方自治体への是正処置勧告を歓迎する声が大きいようだ。どうも下流階級が中流階級である下級官吏にヤッカミを抱く構図になっているような気がして、これらをにいがみ合わせて上流階級へ不満の矛先が向かうのを避けた江戸幕府的な政策を現代の為政者も倣っているような気がしてならない。つならないいがみ合いの前に、この問題はけっこう根の深い重要な問題なので、もう少しきちんと考えたほうがいい問題だ。
 この問題は「民営化」「天下り」など他の諸問題と根っこを同じにしている問題である。小泉時代に散々宣伝された「官から民へ」のスローガン。今でも盛んに使われるが、民間の方がノウハウが優れているというより、民間企業の方が給料が安いので効率化できる部分が大きい。一見すばらしい施策にも見えるが、見方を変えればマクロな賃下げ運動の一部であるとも言える。
  日本の民間企業の賃金は、バブル期に経営層や付加価値の高い一部のホワイトカラー職種の給与が高騰し、バブル崩壊ブルーカラーやサービス現場の賃金水準が大幅に低下し、賃金の二極化が顕著になった。一方公務員は昔ながらの給与体系で、幹部職員と現業職員との間にそれ程給与格差がないままだ。その為、エリート層においては公務員の給与が民間に比べて著しく見劣りするという現象が起きた。結果的にエリート公務員が天下りする魅力を増し、麻薬になった。
 そうなると、公務員も民間企業のようにエリート層の給与水準をぐんと引き上げ、現業職の給与をぐんと引き下げれば、これらの諸問題は解決するという話にもなり得る。ただこれは、格差社会を公が追認することに他ならない。エリート公務員の給与引き上げはともかく、現業公務員の給与引き下げには多くの国民が拍手喝采歓喜極まるであろうが、本来なら相当冷静に考えなければならない問題だ。
とは言え、単純労働に高い給与を与える弊害も無視できない。典型例が大卒・短大卒の人間が学歴を偽って高卒限定の公務員採用枠に申し込む例だ。一般論として本来能力を身に着けた人間が能力を必要としない単純労働に就くことによって、日本国内で失われる付加価値ははかり知れないであろう*1。また下手に進学するより公務員になった方がトクだという認識が国民に流布されることにより、能力向上意欲を奪う懸念もある。やはりより高い能力を必要とする職業により高い待遇が得られる環境を担保しなければならない。
 結論から言うと、現業公務員の賃下げと民間の単純労働者の賃上げを同時になるのがベターであろう。電話交換手の官民給与格差が1.87倍とすれば、公務員の電話交換手の賃金水準を30%程引き下げ、逆に民間の同職種の賃金を30%程度引き上げるような施策を目指すべきではないか。
  民間企業の賃金水準は労働市場の原理で決まるのだから、官があれこれいじるべきではないという考えもあろうが、グローバリゼーションというのは無慈悲なくらい単純労働者の低所得化を推し進める。それを放置すれば、犯罪の増加、社会保障費の増大、国内消費の低迷とあらゆる負の副作用に苛まれることになる。やはり放置するのは愚策であろう。

*1:もちろん名前を書けば入れるような三流大学も多く、大卒者でも高卒同等のレベルしか期待できない可能性も多いのではあるが