LRTと政治

 私の友人にLRTの研究というか、誘致運動をやっている者がいて、私も何度か誘われてシンポジウムに誘われて行ったことがある。LRTは富山での成功例が盛んに報道され、現在も大阪の堺市で具体化、宇都宮市などでも具体化に向けて動き出しているが、彼にはヨーロッパに比べて遅々として進まない現状に焦りを覚えているようだ。
 最近は若手官僚や政治家とも意見交換する機会があるようで、勢い政治的な話になる。
 少し前まで、日本では路面電車は時代遅れのものとされ、補助金の対象にもならず、多くの地方都市では地下鉄やモノレールの建設が検討されてが、基本的に100万人都市規模でないと採算的に相当厳しい*1。ヨーロッパでは世界的に知られた大都市でもせいぜい人口100万人程度で、州都や県都でも人口20万人程度というのはザラ。そのような都市では路面電車が見直され、都市の基幹インフラとして機能している。日本では大都市でこそ、世界有数の鉄道網を誇るが、地方都市を見ると20万人都市でもバスですら十分機能しておらず、完全にマイカーに依存した都市がいくつかある。
 彼は建設コストの高い交通機関でないと政治家やゼネコンが喜ばなないので、LRTが注視されない。日本に圧倒的多い中規模都市では公共輸送機関の充実は夢また夢で、公共輸送機関は衰退し環境が破壊され、高齢者が住みにくい街になると嘆いていた。
 だいぶ時が経ち、時代も変わり、日本でもLRTが見直されるようになったのだが、最近のLRT推進運動に若干の危険な香りを感じるのである。どうもかつてLRT推進運動の敵であった公共事業待望勢力に利用されている気がするのである。公共事業待望派も地方の中都市で地下鉄やモノレールが無理ということに気付き、現実的に予算の付けやすいLRTに着目するようになってきたいのである。 LRT推進派から見れば、政治力は絶対必要なのはわかるが、経済的な輸送機関であるという初心を忘れてはならないと思う。
 未だに役人や政治家がLRTを理解しているとも思えない。日本には路面電車の車両長や速度を制限する法律があり、本来の中距離輸送機関としての優位性は発揮できない。輸送人員でバスの2倍程度で、速度は下手したらバスより遅い。また富山のように高速走行可能な専用線に乗り入れるのであれば、ドイツモデルのような鉄道の優位性が発揮できるが、宇都宮の場合は既存鉄道路線とは接続せずスタンドアローンの事業計画だ*2
 せっかく富山で成功モデルが生まれているので、成果を急ぐ余りLRTの優位性の発揮できないような事業に資金を投じて失敗例を作らないで欲しい。

*1:実際には人口がいくら多かろうが厳しいのだが…

*2:別に宇都宮のLRTに反対するつもりはない。東武宇都宮線JR日光線に乗り入れるのであれば、検討に値すると思うが…