民主党のマイカー族に嬉しい施策が特に評判が悪い。環境重視、モータリゼーション再考の空気が生まれのか?

 民主党マニフェストの中で、「高速道路の無料化」と「ガソリンの暫定税率廃止」など、マイカー族に嬉しい施策が特に評判が悪い。これだけみると世論が環境を重視しモータリゼーションを反省し、公共交通中心の国づくりを是とするようにパラダイムシフトしているようにも思える。
 だが、そう考えるのは時期尚早だと思う。環境重視派やモータリゼーション再考派は楽観視してはいけない。公共交通機関へのシフトに関して自らの実践することも含めた「本気の支持者」はそう多くはないのではないか。実際には、財政再建主義者と鳩山政権や民主党を批判したい人がネタとして利用している部分があり、環境重視派やモータリゼーション再考派が増殖したような錯覚を受けるだけではないか?

世論誘導の主役は環境重視派やモータリゼーション再考派でなく財政再建

 民主党は税制再建派が多いエリート層と、高いガソリン税で道路を作り続けるより、ガソリンや高速料金を安くすべきという一般ピープルの民意を両得するために、ガソリン税の本則分は一般財源化することでエリート層の顔を窺い、暫定税率は廃止することで一般ピープルの顔色を窺った。
税制再建派は、まずガソリン税で道路を作り続けようとする道路族の影響を強く受けた麻生自民党を叩くため、民主党と手を握って道路特定財源一般財源化を推進する世論を喚起した。麻生自民党を追い落として政権交代が実現すると、今度は民主党を強め、暫定税率の廃止を見送るような世論喚起を行った。さらに高速道路無料化反対の世論喚起を行った。
暫定税率廃止の見送りは明らかにマニフェスト違反ではあり、マニフェスト違反だと自民党は批判したが、マスコミの多くは財政再建を是とし暫定税率廃止には反対なので、マニフェスト政治を推進する立場を豹変させてマニフェスト至上主義を批判し、マニフェストなど反故にしても構わないという世論誘導を行った。そして、暫定税率廃止の見送りの決定を歓迎し、更に高速道路無料化のマニフェストを反古にするよう世論工作を行っている。
 世論も財政再建派やマスコミの思惑通りに流れているように思える。

自動車に高い税金をかける意味

 税制再建派は、鳩山政権が廃止を見送った暫定税率を恒久税制化して、財政再建に活用しようとしている。ガソリンに高い税金をかけるのは自動車利用を減退させるので、環境にも優しく、クレバーな施策にも思える。
ただ、このままでは公共交通機関の発達していない地方の人ほど重税を負担することになる。基本的に公共交通機関の発達していない地方ほど貧しい。沖縄などは最たる例で、これでは超逆進税制になってしまう。
 これは家庭用燃料に環境税を負荷することによって、寒い地方の人間が重い税金を負担するとの同様な矛盾だ。日本はやはり寒い地方は貧しく、貧しい地方の人がより重税を負荷される超逆進税制になってしまう。
 今までは、地方の道路を重点的に整備する原資としてガソリン税が使われていたため、逆進税であっても納得する面もあったのだが。燃料に税金をかけるのは環境面で合理的なようではあるが、公平性の担保は非常に難しい。

やはり「マイカーが売れないといけない」経済。

 財政再建派の中で、景気回復を諦めてダウンサイジングを志向している人は稀で、多くの人は景気と財政再建は両輪だと考えている。景気回復の重要なファクターである内需の中でも、自動車販売は重要視され、景気対策として自動車販売奨励施策は効果的だとされている。
 エコカー減税ということで、環境対策のように聞こえるが、実際にはマイカーを手放す人を増やすのがもっともエコである。実際にここ数年不景気で都市部の自動車保有台数は減少し、都市部に限っては公共交通機関の輸送分担比率が増えている*1
 エコカー減税といっても、外圧で対して環境に優しくない外車も指定車種になっており、この施策が環境対策というより、自動車販売活性化策だ。
 そして多くの人は自動車販売台数が増えたほうがいいと考えており、自動車の販売不振の要因と言われている「若者のクルマ離れ」をネガティブに認識している人が多い。もし環境重視派やモータリゼーション再考派が増えているのであれば、クルマ離れを肯定する意見が少しは聞こえてきてもよさそうだが、全く聞こえてこない。そしてクルマに乗らない若者も、環境重視派やモータリゼーション再考派である由ではなく、金がないか興味がないだけである。
 また「高速道路の無料化」と「ガソリンの暫定税率廃止」を批判している人には、環境税導入がCo2削減目標25%に反対している人も多い。ベタな環境重視派は極めて少数派だと考えた方がいい。

民主党自民党モータリゼーションに親和的

 確かに民主党にはモータリゼーションへの親和性がある。直嶋経済産業相など自動車労連出身の議員が多いことや、2000年前半は民主党の党勢が都市近郊にあって、サバーバンライフを営む有権者の民意の影響を受けたとも考えられる。ただ自民党モータリゼーションの見直しを考えている政党である訳でもなく、道路整備を進めてモータリゼーションを主導してきた張本人である。特に近年は地方都市のバイパス建設を進め、都市のスプロール化、マイカー依存の街づくりを進めてきた主犯者である。
 自民党が「高速道路の無料化」と「ガソリンの暫定税率廃止」を批判するのは、今後も道路建設促進が担保されるスキームを維持したい道路族か、財政規律派の何れかで、環境を重視して或いはモータリゼーションを見直すべきという考えから「高速道路の無料化」と「ガソリンの暫定税率廃止」に反対している訳ではない。

地方の民意に配慮を〜ベタな世論の反逆が起こる可能性〜

 なんとなく世論を優勢に主導している財政再建派だが、いささか乱暴な気がする。地方の人がより多くの税金を払って、それが何に使われたかわからないようなスキームは、やがて反発を招きかねない。
 世論調査では「高速道路の無料化」と「ガソリンの暫定税率廃止」に反対意見が多いとしても、都市部と地方での意見のバラツキは注意しなければならない。
  自動車の抑制による環境対策と税収確保を両立させるために自動車に高い税をかける仕組み自体は悪くないが、公共交通機関の発達していない地方住民の負担を考慮した仕組み作りが重要である。都市部のマイカーユーザーの負担を重くするとか、地方のガゾリン税収は地方都市の公共交通機関整備や地方の生活バス路線の維持に使うといった配慮が必要であろう。

*1:不況で輸送需要自体が減っているので、絶対量はそれほど増えていない。