「たちあがれ日本」よりもっとも警戒すべき第3極新党は「首長新党」である。

 保守を全面に掲げようとする平沼は、実際には理念が異なる議員が集まってようやく5人で「たちあがれ日本」を発足した有り様で、いくら平沼が共同代表で、背後に石原慎太郎がいようとも、この党が保守主義の旗艦政党になると思っている人はほとんどいない。自民党や無所属の保守系議員も、この政党の発起人をみて参加を躊躇っているくらいだ。
 左翼ブロガーの中には「たちあがれ日本」への警戒心を露わにしている人がいるが、杞憂もいいところだ。むしろ警戒すべきは、中田前横浜市長山田宏杉並区長らが立ち上げようとしている「首長新党」である。
 彼らが利口なのは「保守主義は票にならない」ということを自覚している点だ。彼らは「改革」や「地方分権」といった無党派層の心に響くスローガンしか言わない。中田前市長は青年将校的な性格で、新自由主義的な思想を持っているが、国家主義でとは違う。この程度の立ち居地なら民主党にもゴロゴロいる程度だ。しかし、山田宏杉並区長は国家主義的な右派で、自分の思想信条に基いた政策を実行しなければ気がすまないタイプだ。かれの系列議員とも言える、松浦芳子杉並区議や、同じくシンパである二瓶中央区議が自民党を離党して、首長新党に参加するとしている。両区議は明らかなカルト右派であり、この政党の性格を色濃く反映している。
 無党派層の多くは、保守主義に惹かれないのと同時に警戒心もない。最近でこそ安倍元総理や麻生前総理や最近の石原都知事など、保守政治家でもダメダメ扱いされることが多いが、もともと保守政治家の方が強いリーダーシップを発揮する(リベラル派の政治家は自分の意見を前面に出さないで、有権者の意見はよく聞くが、物足りない。)という信頼感があり、保守主義そのものを支持していなくても保守政治家に期待するという下地が無党派層にはあるのだ。
 それで有権者が満足してくれる改革を実行してくれれば、多少カルト的で気持悪い右翼的な政策を実行しても、多少は黙認しましょうというのが無党派層の特徴だ。つまり、経済改革を実行し失業率を改善したヒトラーを評価し、多少やり過ぎだと思ってもユダヤ人問題は黙認しようという、ナチスを消極的に支持していた穏健なドイツ人の心理に似ている。

自民党とも、民主党とも、立ち上がれ日本とも結合する危険性のあるウィルス政党

 政策的には一番近いはずの「みんなの党」とは、なぜか人脈的には一番遠い。中田宏みんなの党江田憲司議員とは選挙区で戦ってきた関係だし、東京都の「みんなの党」の顔は川田龍平参議院議員だが、山田宏区長とは政策的に相容れない。ただし、中田前横浜市長みんなの党の勉強会にも頻繁に顔を出しており、参議院選挙では選挙協力をする可能性はなくもないが、山田宏区長と石原都知事の距離感を考えると「たちあがれ日本」と共闘する可能性の方が高いのではないか。老人ばかりで世論のウケが悪い「たちあがれ日本」にとっては、若くて元気のあるこのグループと共闘するメリットは大きい。
 また反民主党を鮮明にしているが、人脈的には民主党に非常に近いのも特徴だ。2人とも松下政経塾から日本新党に参加してキャリアがあり、現在民主党の若手リーダーと言われる議員と同じ釜の飯を食った関係で、個人的には太いパイプを持つ。二人は昨日までは、原口大臣の要請で総務省の顧問を務めていたことからもわかる。またこの首長連合に参加するメンバーは自民党の支援を受けていた者も少なくない。選挙結果によっては、どことも連携する可能性があるのだ。
 この政党は安易に最初から補完勢力になる動きはしないだろう。最初から各政党を天秤にかけ、自らの勢力を高く売る動きをするだろう。現実的な目標は、参議院民主党政権過半数割れに追い込み、「地方分権の実施について合意した」とのお題目で連立政権に参画して民主党政権を都市型自由主義に変質させる辺りにあるのではないか。長期的にも、これから民主党に対抗できる第2党を育てるのは何10年もかかるので、民主党内の松下政経塾出身者やホンネは自由主義的な議員と連携して政界再編を主導する腹積もりではなかろうか。