なぜ道路政策が混乱しているのか―道路政策を巡る3段階の政治闘争―
高速道路値下げも建設も反対。マスコミは何を言いたいのか?
高速道路の料金問題は、民主党の本来の主張である高速料金を原則無料化してその代わり高速道路建設を抑制するか、自民党時代のように高速料金を財源に新路線建設の二者択一のように思われている。今回の問題は民主党が本来の主張を緩めて、一部新路線建設に予算を回せるようにしたのが原因だが、どうもそう単純な問題ではないようだ。
そもそも安易に陳情を受けて主張を曲げる民主党政権が問題を撒き散らしているのは事実*1だ。ただ高速料金を下げることに反対し、作ることにも反対しているマスコミの論調にも違和感がある。高速道路を維持するためにある程度のコストは必要だが、高速料金を値下げもしないで建設もしなければお金が余ってしまう。マスコミはいったい何を主張したいのか?
どうも高い高速料金を維持した上で、建設も抑制し、余ったお金を国庫に入れたいようなのだ。現制度では民間企業である道路会社の収益の吸い上げはできないが、マスコミの主張を総合すると通行税的な発想に行き着く*2。実は高速料金問題は二者択一ではない。
道路政策を巡る4つの意見
道路政策に関しては以下の4つの意見に分けて考えるのがわかり易い。
- 道路族 高いガソリン税、高速料金を維持して、それを財源に積極的に道路建設を推進する。
- フリーウェイ派 ガソリン税を安くし、高速料金を原則無料化。道路建設を抑制する。
- 財政再建派 高いガソリン税、高速料金を維持。道路建設は抑制。余った金は税制再建に回す。
- 交通左派 高いガソリン税、高速料金を維持して自動車交通に負荷をかけて公共交通機関利用を誘発。余った金は地方の公共交通維持や交通弱者の交通権確保に回す。
それぞれのグループがある一つのグループを潰しながら最後に生き残る政治闘争をやっているのだ。その局面では二者択一のように見える課題も、3段階の政治闘争に分けることで理解ができる。
第1段階はとにかく道路族をつぶすことに意味があった。フリーウェイ路線を取った民主党の政策は、財政再建派や交通左派には受け入れがたい内容もあったが、とにかく「無駄な道路を作らせない」の一点で道路族批判を強めて、古賀誠ら道路族が復権した麻生自民党を倒すことで、道路族が敗退し、第1段階の政争は終了した。
マニフェスト選挙を賛美しながらマニフェスト至上主義を批判する怪
政権交代が実現すると、今度は急に民主党の高速道路無料化政策が批判されるようになった。この政策に関しては世論調査の支持が低いから、財政が厳しいから、或いは環境政策と矛盾するなどと、マニフェストを反故にしてでも見直すべきというマスコミの論調が増えてきた。
個人的にはマニフェスト選挙がようやく定着してきたのに、あれだけマニフェスト選挙を賛美してきたマスコミ自らが、今度はマニフェスト至上主義批判を始めてマニフェストは反故にしてもいいような主張を繰り返すのは違和感がある。
しかし、政治はキレイ事では済まない海千山千の世界だ。財政再建派のマスコミや有識者(総本山は財務省)も総選挙前は道路族潰しのために民主党のフリーウェイ路線批判を控えていただけで、道路族潰しが終われば最初からフリーウェイ路線叩きは準備されたシナリオだったのだ。
連日のようにマスコミを通じて高速道路の無料化や値下げに対するネガティブな記事を書き連ねているが、まさに第2段階の戦いが始まっているのである。
フリーウェイ派vs 財政建派+交通左派 第2段階は争点化するのか?
国会路線や選挙活動を通じて、第1段階の問題はなかなか見応えがあったのに比べ、第2段階は論戦になっていないのが残念である。マスコミを通じて世論が誘導され、新聞もテレビも高速道路値下げで苦境に陥るフェリー会社や鉄道会社を取り上げたり、交通渋滞などの負の側面をひたすら強調する。テレビで高速道路無償化の約束を守れと吼えているのはテリー伊藤くらいではないか?
政府はそれになんとなく引きずられ、高速無料化はマニフェストには書いたけどマスコミにも批判されているから適当なところで納めればいいや的な流れになってしまっている。
本来ならどこかの政党が財政再建や交通左派的な主張に基づいた道路政策をまとめて、国会や選挙を通じて政府の高速道路無料化路線を批判すべきである。最近いろいろな政党ができているが、みな現政権の道路政策を批判するものの立ち位置がいまいちはっきりしない。
すでに第3段階の火の粉が燻っている
第2段階の主役は財政再建派であるが、彼らは交通左派を仲間に引き入れてフリーウェイ派を潰しにかかった。
第3段階は、財政再建派による交通左派潰しで最終決着となる。交通権派は連立政権では社民党がこの考えに近く、社民党への配慮から民主党の政策の基本理念であるフリーウェイ路線とはことなる交通基本権なるものを混ぜている。
【風を読む】論説副委員 長・五十嵐徹 注意要する交通基本法
すでに財政再建派や反社会主義的なネオリベラリスト*3はすでに交通左派の追い落としを準備している。産経新聞の五十嵐論説副委員長の高速無料化と交通基本権の矛盾の指摘はその通りで重要なのだが、この論説から、すでに交通基本権を「ばらまき」だと批判する準備をしていることがわかる
財政再建派は第1段階から旗印を明確にしていたら勝てなかっただろう。そもそもガソリン税や高速道路料金など道路利用者から集めたお金が関係ない何か別の予算に使われ、それが紐付きでないのでもうよくわからない状況になるという話をしたら、多くの道路利用者は反発するだろう。最初からガチンコ勝負をしたら、この主張では勝てない。
政治的な思考のできる人間は、途中まで誰と握手をして、どこで裏切って戦いを仕掛ければ政争に勝てるかと言う計算ができる。財政再建派もその時々で世論受けのいいパートナーを風除けに使いながら勝機をうかがうのがセオリーだ。若干面倒でも最後は交通左派を利用する必要があり、第3段階まで面倒なプロセスを踏む必要があった。
民主党は本当にフリーウェイ派なのか?
以上の説明では、民主党の高速無料化路線は、財政再建派に利用するだけ利用されて捨てられたことになるが、単純にそれも怪しいと思っている。政権交代後、民主党が急速に財務省に取り込まれているのは周知の通りだが、一部の有力議員は野党時代に既に財務省に取り込まれている可能性がある。民主党は2002年の菅代表時代から高速無料化を公約に掲げているが、先の総選挙までこのマニフェスト作成を担当した議員に財務省の息のかかった議員がいなかったか、または総選挙では高速料金やガソリン税を道路建設に使わないのであれば、とりあえず利用者に還元する方向を謳わないと有権者が納得してくれないと思い、あとで有権者を騙すのを承知でこの文言を残したのではないか。
そうなると、マスコミが民主党に高速無料化のマニフェストを見直せと言っている圧力が財務省の掌の上で繰り広げられる茶番である可能性がある。国土交通省の政務三役を見ても、前原大臣と三日月政務官は公共交通機関寄りの人でフリーウェイ思想を支持しているとは思えないし、辻元政務官は交通左派的な政策を具現するために社民党から送りこまれてきたものだで、フリーウェイ派は馬淵副大臣くらいだ。
そもそも民主党内で高速無償化に熱心だったのは自動車総連系の議員であるが、その方面の議員は交通行政に参画しておらず、最初から高速無償化やガソリン税の暫定税率廃止を強力に進めようという布陣になっていない。そのことからも、私は民主党のフリーウェイ路線は最初から見せ金だったのではないかと穿った見方をしている。
まとめ::<三段論法>世論を煙に巻くことが可能
<第1段階>
・いつまでも高いガソリン、高い高速料金を払い続けて、無駄な道路が作り続けられるのはおかしい
世論:その通りだ→支持 道路族敗退
<第2段階>
・ なぜ財政が逼迫している時にガソリン税を下げ、高速料金を下げる必要があるのか。その分赤字国債発行を減らせ
・ 安い高速料金でマイカー利用が誘発される。公共交通機関の経営が悪化。環境政策に矛盾。
世論:その通りだ。高速無料化はやらなくていい。 フリーウェイ派敗退
<第3段階>
・ 地方の公共交通機関や交通弱者のために税金を使うのは社会主義だ。財政負担が重くなるから見直せ。
世論:?
<正攻法一本勝負の場合>世論を納得させるのは難しかった。
・ ガソリン税、高速料金は国家に入れて財政再建に役立てよう。
世論:受益者負担の原則に反する。高いガソリンを買わされ、高い高速料金を払い、それが何に使われるかわからない一般財源に入るのか?
マイカー利用の多い地方の人がより高い税金を払うことになるのではないか。