衆議院解散の大義は「3党合意路線からの転換」

 昨今衆議院解散の噂が吹き荒れている。ここで疑問視されているのが、解散の「大義」だ。有権者向けには「消費税増税延期の是非」を問うという出来レースでもまんまと騙せるかも知れないが、有識者やマスコミはしっくり来ないだろう。大義不明なまま解散すると、あまりいい論説をしてもらえなくなるので、何か大義を掲げる必要がある。

有識者に対しては「社会保障費への切り込み=3党合意路線からの転換」を匂わせて期待を得る。

 有識者の間には、自民党政権ですらなかなか決断できなかった消費税増税を、選挙に不利であると解っていながら決断した野田前総理への敬意はあるものの、多くの有識者が期待しているのは増税と歳出削減の同時進行だ。歳出削減に関しては、社会保障費こそが削減の本丸であり、そこを切り込まなけれれば意味がないと考えている有識者が多い。
 野田政権時代の3党合意は「社会保障費の財源のための消費税増税」というロジックであったが、本当はそのロジックを嫌う有識者は多い。これは自民党政権ですらなかなかできなかった消費税増税民主党政権が実行するにあたって、国民世論や当時の民主党議員の離反を抑えるために仕方ないものとして看過したに過ぎない。衆参両院で圧倒的多数を握いる安倍政権には、できればもう一歩踏み込んで「消費税増税社会保障費への切り込み」をやって欲しいと考えており、安倍総理はそのような要望やレクチャーはさんざん聞いているだろう。
 元々、次の総選挙までにはこの方向に舵を切らせるのは官界では既定路線であり、思いの他早く解散風が吹いた今、急いでシナリオライティングに追われているのではないか。「社会保障費への切り込み=3党合意路線からの転換」を期待させることができれば、有識者保守系マスコミを味方につけることは可能だ。

増税延期の代わりに社会保障費の削減

 3党合意路線への転換は2ステップを踏むことで、安倍政権は比較的低リスクで実現可能だ。
 まず消費税増税延期で税収減となるので、ここで社会保障費の大幅な見直しを掲げる。自民党民主党とは支持基盤が違うので、反福祉を支持の源泉にすることができるのは、片山さつき生活保護バッシングキャンペーンがネットで拍手喝采されたのを見ても判る通り。
 もちろん左派を中心に反発も多いだろうが、彼らは消費税増税を何よりも忌諱しており、それに比べれば社会保障費の削減への抵抗感は劣後する。消費税増税社会保障費の抑制どっちを取るかと聞かれたら、前者を取る左派が多いのではないか?日本では増税してでも社会保障を充実させるべきという「本当の左派」は殆どいないので、「増税延期の代わりに社会保障費の削減」は案外ウケてしまう可能性がある。

将来的には消費税再増税

 安倍政権が約束するのはあくまでも消費税増税の延期だ。1年半〜2年後には消費税を10%にする。この結果、3党合意路線の呪縛から解放され、消費税増税社会保障費の削減の同時進行が可能となる。有権者からそれほど批判されることなく、有識者から評価され、安倍政権にはベストなシナリオが描ける。
 もちろん景気がこのまま回復しなければ、いくら低リスクで有識者から評価されても、政権が盤石とはならないが…。