安倍政権は安倍カラーを打ち出せるのか?対米ロビー活動の是非と併せて考える。

アメリカ議会調査局のレポートと韓国ロビー

 9日のNHKニュース9では、アメリカ議会調査局が安倍政権の歴史認識に懸念を示す文書を取り上げると同時に、その背景にある韓国ロビーの動きを伝えた。
今の日本の世論の空気の中では「アメリカも怒ってます」みたいな報道をしても、視聴者の心理拒絶で何も伝わらなかっただろう。日本国内の左派が弱体している中で、日本国内の安倍総理歴史認識を批判する声を報道してももはやニュース価値はない。韓国外交の強かさをありのまま伝える報道は、安倍内閣の高支持率に浮かれ慢心気味の保守的な国民世論に程よいショックを与えたと思う。 

日本はいったい何をロビーするのか?

 9日のNHKのニュースの後、「日本もロビー活動」をすべきだという意見がtwitter等で噴出したが、ではそう言っている人たちは何をロビーすべきと考えているのか、150文字の中でははっきりとわからない意見が多いが、大別すると2つの意見がある。
 一つは従来からの政府見解に基づくロビー活動。つまり「日本は常に真摯に歴史に向き合ってきた」という事実を広く喧伝。時に韓国が感情的な対応をしても、日本は常に冷静に対応してきたことをアピールするやり方だ。
 もう一つは、従来の政府見解を改め、「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」とアピールするやり方だ。
 前者のロビー活動なら今すぐできる。菅官房長官のコメントも前者の立場に立ってのものだ。ただTwitterを見る限りでは、後者を期待する意見が圧倒的に多いように思えるが、そのようなロビー活動は可能なのだろうか?

「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」といったロビー活動は可能か?

 仮に安倍総理が従来の政府見解を改めると決断した場合、外務省が猛烈な抵抗をするだろう。外務省は鳩山内閣の時には左側に壁を作り、基地の県外移設に抵抗したが、アメリカの国益とぶつかる問題に対しては右側にも壁を作る。総理大臣とて自由に動けない。
 それがダメなら非政府組織がロビー活動を行う方法が考えられる。ただ現状韓国ロビーが闊歩し、アメリカの国論が定まっている状況で無鉄砲に「戦前の日本は決して悪ではない」「従軍慰安婦は捏造だ」と主張しても、それは韓国にとっては「アメリカの対日観を悪化させる美味しいネタ」になり、思う壺である。
かつて、作曲家のすぎやまこういち氏やジャーナリストの櫻井よしこ氏ら有識者でつくる「歴史事実委員会」が米ニュージャージー州のローカル紙に「女性がその意思に反して日本軍に売春を強要されていたとする歴史的文書は発見されていない」という内容の意見広告を掲載した。これはロビー活動というよりパブリック・ディプロマシーで、もちろんロビー活動と並んでパブリック・ディプロマシーは重要な行動ではあるが、成果があったとは言いがたい。この意見広告には安倍総理をはじめ、現内閣の4閣僚が賛同者として名を連ねており、むしろ安倍総理ナショナリスト安倍内閣には国粋主義者が多く含まれるといった議会調査局のレポートの根拠に利用されしまった。言い方は悪いが、日本国内の保守派の自己満足のための行為が、外交的には餌食になっただけの惨敗である。
では、そうしたらいいのか?正直私には妙案は浮かばない。深入りしない方がいいとしか言いようがない。

韓国のロビー活動も万能ではない

 韓国のロビーが成功しているのは、以下の条件が揃っているからだ。

  • アメリカは日本と戦争をした国であり、日本が戦前の体制を正当化するのはアメリカ人にとっても不愉快である。
  • アメリカは保守派、リベラル派にかかわらず人権に敏感である。

 よって靖国問題従軍慰安婦問題での韓国ロビーは元々スタートラインからして優位である。逆に日本が「A級戦犯は悪くなかった」「従軍慰安婦は捏造だ」というロビー活動をやろうとしたら、スタートラインから不利なのだ。
 ただ韓国ロビーがすべて上手くいっている訳ではない。例えば「日本海の呼称問題」。韓国は日本海を東海(トンへ)と呼ぶようロビー活動を行っているが、アメリカは併記か日本海単独呼称に留まり、東海単独呼称は実現していない。竹島問題もアメリカは余計な争いに首を突っ込みたくない意識が強く、韓国ロビーは成功していない。李明博前大統領の竹島上陸に関しては、アメリカは日本を冷静に対応したと評価する一方、韓国側が余計なトラベルメイクをしたとの悪印象を持っているぐらいだ。
 韓国がロビー活動を開始しているか定かではないが、日本が集団的自衛権を行使することに関して反対するロビー活動も失敗するだろう。なぜならば、アメリカがそれを望んでいるからである。いくら韓国ロビーが強いといっても、アメリカの国益に反するものまでは覆らない。

安倍カラー集団的自衛権と防衛費増額に特化するしかない。

 河野談話の見直しは相当困難な問題で、下手に首を突っ込むと自爆しかねない。靖国参拝は以前のブログで言及したが、任期最後に1度だけ強硬すれば行けるくらいに考えた方がいいだろう。
 安倍総理は経済政策に特化しろという声も強い。ただそれでは、自民党が下野して一番苦しかった時も熱心に支持してくれた支持者に申し訳ないという気持ちもあろう。
 であれば、安倍総理はコアな支持層である保守層とアメリカの利害が一致する、集団的自衛権と防衛費増額に特化するしかない。アメリカは極東で米軍が担ってきた役割の一部を日本に肩代わりして欲しいと考えており、これを実現すれば安倍総理アメリカの心象は格段に高まる。ここまでできればアメリカにも「最後くらいは靖国参拝を黙認してあげよう」という空気が生まれるかも知れない。
もちろん憲法9条改正や防衛軍創設と言ったほうが、国内向けには成果のアピールになるが、アメリカは現行憲法でも集団的自衛権の行使は可能と見ており、実でなく名を取る為に汗をかくのは国内向けのパフォーマンスと見做して評価してくれないだろう。この辺はあまり無理をしないのが身のためである。 河野談話を見直さなくても、憲法改正ができなくても、保守層はこれだけで十分に安倍総理を評価し、満足するはずである。