天皇陛下を政治利用するな!という胡散臭さ

 富田メモにまつわる騒動は、結局「天皇陛下を政治利用するな!」ということで少し静観という感じになっているが、ここに辿り着くまでいろいろあった。靖国参拝を支持する保守系政治家や保守系の識者は、影響を最小限にとどめようと最初から予防線を張る戦略に出たのは流石に保守の知恵だ。しかし実にみっともなかったのが右傾化した若者たちだ。

  • 最初は特に根拠もないまま捏造説を流布。ブログでも2ちゃんねるの情報だけで「捏造だそうです」と信じる恥ずかしいエントリーが数々現れる。
    • id:kikori2660:20060721 メモ解読捏造報道確定か。こりゃ朝日新聞のサンゴ報道を超える結末に終るかもな(笑)。
    • id:page2:20060724 どう見ても捏造なのにそれを証明してるのがネットくらいだもんなぁ。

 その他陰謀説についてはid:good2ndさんの「陰謀論にハマる人々」というエントリーが面白い。
 しかしマスコミは既にメモは本物であることを前提の議論になっていた憔悴から、この説は盛り上がり、2ちゃんねるからメディアを動かそうという動きが出てきた。

以下、2chより引用
http://news18.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1153461672/l50

86 名前:<丶`∀´>(´・ω・`)(`ハ´  )さん[] 投稿日:
2006/07/21(金) 15:11:29 ID:+1F+FDUl

先程、以下の意見書産経新聞に送りました。
もし明日の朝刊で産経が同様の記事を書いていたら、2ちゃんがマスコミを動かした事になります。みんな明日を楽しみにしていてくれ。

Sub:富田メモ昭和天皇発言ではない事が解明できました。

産経新聞

「2ちゅんねる」で富田メモの3ページ目を解読した者がいます。テレビのキャプチャー画面から3ページ目の裏に写った文字を反転と画像補正で鮮明にし読み取る事に成功しています。(すっ、ごい!---スマイリー)

http://sakuratan.ddo.jp/imgboard/img-box/img20060721082842.jpg
                63.4.28 〔■〕 
☆Pressの会見(3ページ目)             
[1]  昨年は             
  (1) 高松薨去間もないときで心も重かった          
  (2)メモで返答したのでつくしていたと思う          
  (3) 4:29に吐瀉したが その前でやはり体調が充分でなかった   
  それで長官に今年はの記者印象があったのであろう      
  =(2)については記者も申しておりました            
                   
[2]  戦争の感想を問われ嫌な気持を表現したがそれは後で云いたい   
   そして戦後国民が努力して平和の確立につとめてくれたことを云い    たかった        
   "嫌だ"と云ったのは 奥野国土庁長の靖国発言中国への言及に
   ひっかけて云った積りである

前にあったね どうしたのだろう
中曽根の靖国参拝もあったか
藤尾(文相)の発言.
=奧野は藤尾と違うと思うが
バランス感覚のことと思う
単純な復古ではないとも.

私は 或る時に.A級が
合祀され その上松岡.白取
までもが、
筑波は慎重に対処して
くれたと聞いたが 
○   松平の子の今の宮司がどう考  
えたのか 易々と
松平は平和に強い考が
あったと思うのに 親の心子知
らずと思っている
だから 私あれ以来参拝
していない.それが私の心だ
  
・ 関連質問 関係者もおり批判になるの意

※3ページ目と4ページ目を続けて読むと次の事が判ります。
1.メモはプレスの会見を筆記したものである。
2.昭和63(1988)年4月28日の記述である。
3.質問に対るす答えは率直な感想を述べているように読み取れる。
発言内容を事前にチェックされる立場の人間ではない事が判る。
4.高松宮様に対して薨去という言葉を使っている事から宮家ではなく
仕える立場の人物の発言と読み取れる。
5.「(3) 4:29に吐瀉したが」のくだりは客観的な表現で自身の事ではない。
6.戦争の感想を問われた時「嫌な気持を表現」している人物である。
7.あまり閣僚を知らない人物である。
8.会見時の発言に「そうですか」が多かった。
9.靖国神社松平永芳宮司を松平の子と呼ぶ事から近親者で年配者である事が判る。

以上の事から考えて、このメモの発言者として最も適当な人物は徳川侍従長である事は明白です。
理由は以下の通りです。
a.徳川侍従長のが勇退日は昭和63(1988)年4月末日。(会見の有無は確認できず)
b.徳川侍従長の以前からの発言と相似している。
c.前出の1〜9の指摘事項に全てあてはまる。

では昭和天皇陛下の発言とした場合、以下の矛盾点が生じます。
イ.この日に昭和天皇陛下の会見は報道されていない。翌29日の天皇誕生日での会見は記録に残っている。
ロ.記者が天皇陛下に対してこのような質問をするとは思えない。又、質問する機会もない。
ハ.発言者は自身を「私」と言っている。天皇陛下であれは公式な場は「朕」と言う筈である。

私がこの意見を貴社に送ったのは、他のマスコミが信じられないからです。
日経は3ページ目をわざと隠しています。3ページ目を公表すると捏造がばれるからです。
しかし私達の仲間が3ページ目を解読することに成功しました。
この新事実をネット掲示板だけに留めている訳にはいきません。
ぜひとも昭和63(1988)年4月28日に徳川侍従長の会見があったかどうか裏を取って下さい。
そして会見内容を精査して下さい。もし同じ内容ならば徳川侍従長発言の裏付けになります。
他社には寄稿していません。又、この意見は私1人の意見ではありません。
2ちゃんねる靖国肯定派の総意と思って頂いていいと思います。』

 産経新聞だけは自分たちの味方だと信じているのがネットウヨの特徴ですな。
 しかし見事に裏切られ、産経新聞は捏造説や徳川侍従長説について報道しなかった*1
 産経新聞の記者はその頃どう捉えていたか「IZA」で見てみますと、正論編集長の大島信三氏は「いや驚きました」の一言。http://oshimas.iza.ne.jp/blog/entry/19772/
 最初から天皇の発言を前提に、最初からこのタイミングで報道したマスコミを批判する「政治利用批判」のスタンスを見せています。
 産経一の電波記者の阿比留瑠比に至っては読者から捏造情報を受けたが「ただ、われわれは現物を持っておらず、実際に現物にあたって調べることができないので…」と珍しく真面目な優等生的意見を言った上で、体調が優れないのでビールを飲んで寝る!と消沈。http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/19602/
 自分のイデオロギーに合わない動きが起こると気分が悪くなるという線の細さを見せ付けた。


 マスコミに裏切られるとお決まりのマスコミ批判。
結局、マスコミも捏造説は取り上げず、ネットウヨの捏造論争は下火に。さんさんお祭り騒ぎをした挙句に、結局一般の保守派知識人同様の「天皇陛下の政治利用は許さん」という言説に集約していった。
 しかし本当に「天皇陛下の政治利用は許さん」なんて現行憲法下の象徴天皇制にコミットするような考えを持っている人がどれだけいるのであろうか?天皇陛下ありきのナショナリズムならば問題ないが、ナショナリズムありきの人が天皇を語ると、必ずナショナリズムのための天皇陛下の利用を匂わす発言になる。日本会議に巣食う宗教団体なんて、自分たちの宗教の求心力を高めるために天皇陛下を利用している天皇の宗教利用ではないか。下心なしに「天皇陛下の政治利用は許さん」と言える人なんてほとんどいない気がする。
 天皇制はその有用性の上に万世一系が維持されてきたというのもまたパラドックスで、戦後も天皇制が維持されたのもGHQ天皇制利用である。天皇制が利用不能なものとすることは、実は天皇制の維持装置の取り外すことにもなりかねない。ただその有用性が上に利用しようとする者を牽制しなければならない。今回は天皇制を一番利用しそうな勢力が「天皇の政治利用罷りならず」と発言した意味は大きい。それは自らも律するという決意表明と好意的に解釈すると同時にダブスタに陥いらぬか注視してゆきたい。

*1:8/2に岡崎久彦氏の意見として徳川侍従長説を紹介したが、社説ではない