「保守主義 拡大より空洞化が問題」 

 北海道大学 中島岳志助教授 1月8日朝日新聞より

 エドマンド・バークは人間の理性の限界を認識し、抽象的理念の普遍性を疑い、歴史の風雪に耐えた具体的な伝統や習慣を重んじる保守主義の立場でフランス革命の熱狂の中で理想社会の実現を解く人々を批判した。「人間は非合理で利己的な存在だ。エゴイズムや怠惰、おごり、ねたみ等を払拭することができない。保守主義者は人間の根源的な「悪」を自覚し、「どんなこともできる」という思い上がりを諫めることが共通する態度である。
 保守主義者は人間の「悪」を抑制し、自らの能力への過信を諫める宗教を重視する。また小林秀雄福田恒存江藤淳山崎正和勝田吉太郎ら戦後の日本の保守主義者は人間の「悪」を自覚し、「政治の限界」を認識した上で文学に関心を向けた。
 戦後生まれの「大東亜戦争肯定論」を展開し、いじめ問題については武士道のような精神主義の復活を声高に叫ぶ人たちは真の保守主義者なのであろうか?真の保守主義者ならば、戦前・戦中の全体主義的熱狂に懐疑と批判のまなざしを向け、人間の根本的悪を反省的に凝視する。
 今、問題なのは「保守の拡大化」ではなく、「保守の空洞化」である。

 最近の自称保守主義者へ違和感を唱える人は多いと思う。そのなんともいえない違和感をわかりやすく述べている。私の私見と付け加えると、日本の戦前・戦中の全体主義は「人間の全能性を過信した理想主義」であって本来保守主義者が批判すべき対象である。戦後、戦前の全体主義体制の反省を踏まえつつ、共産主義を批判する保守主義が日本にも胎動したが、しだいにその保守主義が空洞化してきたのでろう。
 かつて保守論壇と言われた雑誌には、今は全体主義論壇と改名した方がいいのではと思われるような言論も目立つ。