近親憎悪してきた日本の右派と左派

 戦後の日本の右派と左派は、実は近似的な共同体主義であり、新自由主義の隆盛で右翼も左翼も流動化したのち、現在昔の右派と左派は更に近似性を強めて、新しい共同体主義に収斂しようとしている。便宜上右派だの左派だの言うが、実は余り意味のない区分なのかも知れない。

ともに「共同体主義」であり「大きな政府」であった右派と左派

 私は2/19のエントリーで戦後日本の右派も左派も共同体主義であったと申し上げたが、同じ共同体主義でどこが違うかといえば、右派の共同体主義が地域や家族を基盤に置いているのに対し、労働組合共産党などは地方から都会への人口移動が起こる中で伝統的な地域との繋がりを失った若者に擬似共同体を提供して組織化していった。創価学会も同様に組織を拡大した点では似ている。結局、伝統的な共同体か、人工的な共同体かの違いでないのである。
 また右派と左派は高度成長で得た富を弱い部分に再分配するという考えは同じである。右派は公共事業を通じて地方に再分配したり、農業分野に補助金として再分配を行うという主張。左派は地域に関係なく福祉や社会保障予算を拡充して弱者に分配しようという「大きな政府」の範疇でのパイの奪い合いをしてきたのである。右派は家族や地域共同体を重視し、福祉は家族の扶助で行うべき*1という考えが主流で、公的福祉は重視しない。また左派は公共事業そのもを重視しない為、あたかも両者が反目しているような印象をお互いに持っていたのである。

新自由主義の時代

 80年代以降、財政が悪化し行政改革が叫ばれるようになり、「大きな政府」の維持が困難になってくると、右派の中から「新自由主義」的な主張が萌芽し、戦後の近親憎悪的な二項対立が崩壊した。ただ政治的には大きな政府の古い保守と新自由主義自民党という器に同居し続けている。また90年代に自民党より新自由主義を明確にした野党が登場し、それまで左翼政党を支持してきた人の中にも、大きい政府から脱皮できず現実的問題への対応能力を失った社民主義に見切りを付けて新自由主義を支持する人が現れた。「税金の無駄遣いをやめろ」といったスローガンは元来の左派支持者に非常に受けがよく*2新自由主義が抵抗なく受け入れられた。左派支持者は「公共事業を削ってそれを福祉に」的な一時代前の夢と同一視して新自由主義に傾斜した政治家を支持していたのであろうが、新自由主義が公共事業以上に社会福祉的な支出を忌み嫌う思想だということは露も知らないのであった。
 そして小泉純一郎の登場である。彼の登場により自民党の大きい政府派が弱体し、新自由主義色を鮮明にした。一方、本来自民党以上に新自由主義色の強い政治家が多く所属していた民主党は、新自由主義のお株を奪われた形で、新自由主義を批判する立場を取るようになる。*3
 新自由主義が批判されるようになったのは、小泉政権末期であろうか。ホリエモンに代表される規制緩和の風雲児が余りにも下品であったために、新自由主義を支持してきた右派が新自由主義自由主義的、個人主義的な側面を嫌悪し、日本的な共同体主義に回帰し始めた。また新自由主義を許容した旧左派も、弱者に厳しい新自由主義の実態にようやく気付き、慌てて批判を始めたのである。

最近の右派と左派の近似性

 右派が共同体主義に回帰した動きとパラレルして、左派も共同体主義に回帰を見せている。右派が再び地域や家族の重要性を説き始めた一方、左派はリタイアした団塊世代を中心にNPO活動を始めてる。右派が伝統的共同体を基盤にし、左派が人工的共同体という構造は戦後の構造と同じだが、違う点は脱政治的傾向を見せている点であろうか。
 古い左派は労働組合等の共同体により政治運動を行うことが目的であったが、NPOは直接地域の福祉活動を行う点で性格が異なる。政府に福祉的予算の獲得を求めることでなく、脱政治的な独自の福祉を行うことで行政を肥大化させない福祉を実現しようとしている。またNPOと地域コミュニティはより親密性を高めており、伝統的共同体と擬似共同体が分立していた戦後とは様相が異なる。
 ものわかりのいい右派*4は、家族を重視しつつも福祉は家族内部の家内扶助で為されるべきという主張が現実的でないことも理解している。もともと日本は家族よりもっと大きな地域共同体での扶助が盛んであり、専業主婦が育児や介護すべてを請負う姿が戦後一時期見られた特異な現象で、日本の伝統でもなんでもないことを理解している。むしろ余裕のある人が元気なうちは地域に貢献しようというNPO活動はむしろ受け入れやすいようである。

*1:つまり妻は仕事を辞めて育児に専念し、年老いた親は子供が同居し面倒みろということ

*2:そういえば左翼タレントの大橋巨泉が「巨泉のこんなものいらない」という番組をやっていた。

*3:実施には新自由主義者が未だに多いのだが……

*4:いまだにNPO=左翼と嫌悪したり、育児や福祉は家族内扶助で行うべきという堅物の右派もいるが