なぜ?今、医師が不足しているのか

 ちなみに厚生労働省は未だに「医師が不足している」という状況を認めていない。地域的偏在と診療科別の偏在を限定的に認めているに過ぎない。しかし農村部から都市近郊に至るまで医師が不足している状況で既に偏在とは言えない。診療科別では特に小児科、産婦人科での医師不足が深刻である。
 医師が不足する状況に至ったのは、政府が意図的に医学部の定員削減を推進した政策ミスであり、人災なので、余計に「医師不足」を認めたくないのであろう。
 ちなみに、医師の需給や医学部定員削減のプロセスは役所のサイトに公表されている。
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/10/s1028-6c.html
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/02/dl/s0225-4e1.pdf
文部科学省
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/029/toushin/07012322/001.htm

  • 1982年 医師の過剰を招かないように配意し、適正な水準となるよう合理的な養成計画の確立について政府部内において検討を進めることが閣議決定。(中曽根内閣)
  • 1986年 厚生省の「将来の医師需給に関する検討委員会」の最終意見において、平成37年には医師の10パーセントが過剰になるとの需給検討に基づいて、平成7年を目途に医師の新規参入を10パーセント程度削減するとの提言がなされた。
  • 1987年 文部省の「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」の最終まとめにおいて、平成7年に新たに医師になる者を10パーセント程度抑制することを目標として、国公私立大学を通じて入学者数の削減等の措置を講じることが提言された。

 「将来の医師需給に関する検討委員会」は通称“佐々木委員会”と呼ばれ、日本医師会幹部でリウマチ医学の権威の佐々木智也東大名誉教授を中心に医師会関係者で構成されていた。

  • 医師需給の見直し等に関する検討委員会意見について

http://www.umin.ac.jp/govreports/jukyuu/jukyuu.txt
 日本医師会というのは、医者の報酬にしか興味のない団体で、過当競争を抑制して医師の所得維持に主眼があった。そのことは上記のテキストの中でも謳われている。
 最初から、医療費歳出を抑制したい行政と、医師の所得を確保したい医師会の哲学なき合力の結果がこれである。ここで使われたデータも単純に医師数を人口で割ったものであり、高齢化の進行による一人当たりの受診回数の増大という当然計算されるべきファクターが欠落していた。これ以外にもインフォームド・コンセントなどの定着による1回辺りの診察時間の増大などの不可抗力も加わり、現在の深刻な医師不足を招いた。