衰退する実利派 跋扈する理念派

 人間の政治意識を見ると、理念を重視(実際には多くの人が便乗憂さ晴らし派だが…)する人と実利を重視する人がいる。政治の話をすると、必ず右か左かという話になるが、政治状況やそれぞれの国の成り立ちによって右・左というのは相対的に付けられた標識なので、あまり議論する意味はない。
 この区分で言うと、グローバルで実利派の衰退が著しいとの印象が拭えない。

 パリ市は社会党が与党だ。企業をスポンサーとする保守政党より、左派政党は理念的な判断をしやすい。人権重視の観念から、明らかに中国を敵視してチベットを支持する態度を取ったのであろう。
 これは中国に対してかなり挑発的な政治的決断であると言える。このことで様々な影響が出よう。カルフールでのボイコットのみならず、このままではフランス企業の中国内での事業、例えば高速鉄道事業へのTGVの参入などに大きな影響を及ぼすであろう。
 私は、世界的な傾向として実利派が衰退して、理念派が勃興しているような印象を受ける。このような状況では、実利派も身動きが取りにくい。対抗して中国に親和的な態度を取ってビジネスがうまくいくよう工作すると、国内の理念派から攻撃を受けて、国内でボイコットを受けかねない。実利の面からそれも好ましくないからだ。
 このままでは、フランス企業は、中国ビジネス皮算用していた様々な機会利益を放棄せざるを得ない状況に追い込まれるやも知れない。
 日本でも実利派が身動きを取り難い状況になっているのは間違いない。小泉元総理の靖国参拝で日本企業が中国国内で様々な許認可で不都合な扱いを受けた時期があったが、実利派は中国とのビジネスをうまくゆかせるために小泉元総理を批判することはしなかった。それをやったら国内でボイコットを受けて、実利でマイナスという判断も働いたと想像出来る。また、小泉元総理は概ね実利派の利害に適った政治家であり、アジア外交が唯一の実利派との利益相反であったので、これくらい我慢しようという判断が働いたのかも知れない。
 日本の政治でも、中国を挑発する発言をすれば確実に拍手喝采を浴びる。しかし政治献金をしてくれる実利勢力は、中国ビジネスでの成功を望んでおり、日中友好を望んでいる。まず選挙に勝つことが至上命題の政治家は前者の態度を取り、選挙基盤が磐石でむしろ派閥運営などでお金が欲しい政治家は後者の立場を取る傾向にある。
 理念派に罵られる政治家に大物が多く、拍手喝采される政治家に次の選挙やばいような議員が多いのはそのためである。