鳩山退陣と今後の普天間問題の展望

 鳩山総理の退任理由は普天間問題と社民党の政権離脱だと言われている。ただ社民党が政権を離脱したのは政治マターの話しで、これについて怒っている有権者はあまりいない。有権者目線で言えば普天間問題で鳩山総理が辞めたといえる。
 普天間問題についての鳩山批判には二つの流れがある。一つは沖縄側或いは左からの批判で、県外移設という約束を破ったという批判。もう一つがアメリカ或いは右からの批判で、沖縄県民にできもしない約束をしてその気にさせて問題を複雑化させたという批判だ。とにかく鳩山を辞めさせることが目的であれば、批判ロジックなどどうでもよくて、矛盾するロジックだろうが何でもくっつけて批判すればよかったのだが、いざ辞めるとなると、批判者側も総括が必要になる。

一定の成果を得た「右からの批判」と、沖縄からの批判。成果の乏しい左からの批判。

 右側からの批判者は「問題を複雑化させた」と怒ってはいるが、一定の成果を得たといえる。一番の成果は、今後アメリ海兵隊の県外移設を言い出す総理が出る可能性を封印したことである。鳩山の失敗を見て、この困難な問題に取り組もうとする総理は二度と出てこないだろう。出てくるとしても、アメリカの安全保障政策に大きな変更があるか、国際情勢が大きく変わったタイミングで従属的に対応するケースだろう。
 沖縄県民も残念な結果ではあるが、「沖縄がまとまった」という成果は有益であった。今まで沖縄県内は保守陣営と革新陣営が対立し、基地との共存を志向し中央政府に対し従順な保守勢力が一定の力を持っていたが、革新陣営と共闘していたはずの民主党辺野古移設に転換する一方、沖縄の保守陣営は中央からフリーになり沖縄の立場を明確にできるようになり、沖縄が一つにまとまった。実際に県外移設は困難にはなったが、この沖縄世論の分断の終焉は沖縄にとっては大きなプラスになったと思う。
 一方何も成果を得られなかったのが、左派だと思う。今後、民主党より左の社共政権ができて再び安全保障政策を大きく見直す展望もなないし、曲がりなりにも安全保障政策で民主党の数の力を利用して大きく方向転換しようという目算もなくなった。強いて言えば、今後民主党が安全保障政策で現実路線を志向する中で、一部民主党に流れていた左派の票が社民党共産党に流れる可能性があるくらいだろうか。鳩山を批判したい気持はわかるが、左派による鳩山批判は、右派や沖縄県民からの批判に比べて、今後の展望に欠ける批判であった。

今後の右派(日米安保重視派)の課題

 次の民主党総裁選では、もはや県外移設を唱える候補者は出てこないであろう。誰がなっても辺野古現行案を進める首相が誕生する。そこで右派はそれに協力するか、引き続き基地問題を政権批判の利用するかという問題にぶつかる。鳩山総理が止めても、「民主党は嘘つき」という批判ロジックは今後も使える。ただ「民主党は嘘つき」は左派や沖縄マターの批判ロジックであり、本来の日米安保重視の立場から見れば矛盾する。
 自民党にとっては沖縄県知事選挙での対応が焦点だ。中央の自民党が今後の与党復帰を念頭に沖縄自民等に現実路線を求めるのか、それとも民主党に対してダメージを与えることを優先し、自公派も県外移設反対を貫くことを認めるのか。それによって今後の基地移設の目算は大きく変わってくる。

今後も沖縄の課題

 沖縄にとっても沖縄県知事選挙と名護市議会選挙が山場だ。元々沖縄県民主党の勢力が弱いので、自公対革新という対立構造になるが、自公派がどういう立場を取るかが重要だ。民主党が中央とのねじれ覚悟で自公派に相乗りして、沖縄の保守勢力を中央の艀として利用するかも知れない。「沖縄世論の一本化」がどこまで守れるかが鍵になるだろう。
 革新派が勝利した場合、或いは保守陣営でも中央の圧力を排して辺野古移転反対を貫いた場合、普天間基地が継続されることを覚悟してでも辺野古移転に反対するかという現実問題に直面する。
 鳩山批判ロジックの中では、「普天間の恒久化」は最悪の結末で辺野古はベターな選択肢ということになっているが、沖縄県民はどう考えているのか、県外移設が絶望的になった段階で県民世論をリードする指導力が試される。ここで、時間がかかっても県外移設を求め続け、そのためには普天間基地が継続することも止むを得ないという考えと、普天間基地移設が優先課題だと考えるグループが分離すると、中央政府に沖縄懐柔の材料を与えることになる。