若者は老人と同様、年金の受給額引下げを評価しない。

若者は世代間対立を意識していない

 政府は、本来物価スライドで引き下げるべきなのに据え置いてきた年金を本来の水準に引き下げることを決定した。多くのメディアや有識者はこれを肯定的に受け止めている。
 ただ多くの国民は評価していない。若者は賛意を表明するのではと考えている有識者が多いようだが、これは「高齢者と若者との間に利害対立が存在する」という机上の想定に基づく推論に過ぎない。多くの若者は利害対立を意識しておらず、むしろ「年金が下がる」という事実を、年金制度や政府への不信に結び付けているように感じる。
 このように多くの若者には「世代間の利害対立」という意識はなく、高齢者に厳しい政策が実行された場合も、それにより将来への負担が軽減されたというポジティブな反応はしない。
エコノミストの間では、恵まれている高齢者に支払われている年金や福祉の予算を減らすべきだとの声も聞こる。そのような政策を喚起するには高齢者と若者の世代間対立を煽り、高齢者に厳しい政策を若者が後押ししてくれないかと望むが、なかなかそうならない。その原因を若者が選挙に行かないため、高齢者の世論が拡大されて反映されるせいだと主張する人が多いが、それ以前の問題で、多くの若者に世代間対立の意識がなく、そのような世論工作に乗ってこないのである。高齢者と若者の世代間対立はエリートの机上の妄想に過ぎないのだ。

年金の受給額引下げや支給開始年齢の引き上げは小手先の対応?

 年金の受給額引下げや支給開始年齢の引き上げは小手先の対応だから、誰も評価せずにただ国民の不安を煽るだけという意見もある。ただそれは年金の税方式化など抜本的改革を望んでいる人の立場であろう。民主党政権は税方式を前提に抜本的な改革をやると言って政権を獲得したのだから、小手先の対応でなく、はやく骨格を示せというのは政治的には正論だ。ただ税方式は大きな政府に繋がりかねず、実際には税方式導入に反対している有識者も多い。そういう有識者は、まず現状制度の中で年金の引下げや支給開始年齢の引き上げをやれと主張、民主党政権が税方式を前提とした抜本改革の骨子を仮に提示できたとしたら、批判する声を上げるだろう。彼らにとっては小手先の対応でなく、小さな政府への一里塚になる年金の受給額引下げや支給開始年齢の引き上げの方が重要なのだ。

さりとて若者は大きな政府を期待している訳ではない

 若者が、年金の受給額引下げや支給開始年齢の引き上げを評価しないことは、彼らが小さな政府を支持しないこととイコールではない。なぜなら、彼らが年金制度の抜本改革を望んでいるかと言えば、そうではないだろう。消費税増税への抵抗感は年金の受給額引下げや支給開始年齢の引き上げの比にならないほど拒否感が強い。民主党政権が税方式を前提とした抜本改革の骨子を仮に提示できたとしても、それを支持する若者は少ないであろう。将来の安心を消費税増税正当化のネタにしているぐらいにしか思わない。
 彼らが唯一信用されるのは「政府は信用できない」「年金は信用できない」という事実である。小さな政府を求める有識者は、若者に世代間対立を煽ったり、政府に年金の引下げや支給開始年齢の引き上げを評価するというような、説明させることが難しいことを一所懸命説くより、ただ「政府を信用するな」「老後は自己責任で備えよ」と唱え、誰も年金に期待しない状況にすれば、彼らは自然と小さな政府にコミットするのではなかろうか。消去法で今もっとも考えられる落とし所である。