衆議院の選挙制度選挙制度 3人区を基本とする中選挙区制度

今の1票の格差を放置したら、次の総選挙は無効になるのでは言われる昨今。国会では、今の制度のまま格差の是正や比例区の定員削減を行うような対応でなく、抜本的な制度変更を求める声が強まっている。国会に留まらず、世論も小選挙区制度を基本とした今の制度に問題があると感じている人が多いようだ。
個人的には3人区を基本とする中選挙区制度(少し前に公明党が主張していた案に近い)がベターではないかと思うに至った。あれだけ中選挙区制度の弊害が言われて、今さら中選挙区制度復活もすっきりしない気もするが、この制度がベターと思うに至ったのは、今の政治状況では3人区で2人当選させる力のある政党が存在しなくなった*1ために、かつて言われた弊害は起きないだろうという点が大きい。
 もちろん小選挙区の改良や比例代表を基本とした制度もできないか考えたが、いまいちメリットがはっきりしない。それぞれのメリット・デメリットは別の機会に言及するとして。3人区を基本とした中選挙区制度のメリット・デメリットを考えたい。
<前提>

  • 定員を400人とする。(80人の削減)
  • 3人区を優先的に設置し、端数は2人区とする。
  • 全国に3人区が110選挙区、2人区が35選挙区の計145選挙区ができるとする。

<メリット>

  • 各党が合意しやすい

 なんとなく多くの政党にメリットがあるように思える。(本当はどこかの政党が存する筈なのだが、確実性が高いのでメリットを感じやすい。)
 この選挙制度で明らかに不利になるのは共産党社民党だけ。
民主党:今の小選挙区制度では、次の選挙で大敗し、小沢一郎予想の50議席は極端にしても、2桁台まで議席を減らすリスクがあり、その場合敗戦総括で党が空中分解する可能性すら指摘されている。この制度なら現有議席を確実に減らすものの、各選挙区で各1人当選すれば約140議席くらいは期待できる。また自民党公明党の選挙関係が弱くなるので、連立工作の自由度も拡がる期待ができる。
自民党:一時は解散総選挙をすれば大勝との予想もあったが、支持率は伸び悩み傾向で、とりあえず前回落選した議員を一定数確実に救済できるこの制度は魅力。地方の3人区の一部で2人当選できれば民主党を上回る170議席程度を狙える。地方での自力を考えれば常に民主党を上回る比較第1党の座を維持し続けることが可能である。また多くの議員が公明党選挙協力なしで当選できるので、自民党らしい政策が堂々と主張できるようになる。
公明党:当初公明党が狙っていた制度に近い。みんなの党の台頭から3人区での議席獲得の確実性が低くなったため、中選挙区制度より比例区中心の制度にシフトしたが、それでも都市部の3人区のかなりの選挙区で議席獲得が狙える。1票の格差の是正により都市部の選挙区が増えるので、うまく行けば現有の20議席の3倍増を狙える。
共産党:今の実力では議席が狙えるのは京都府くらい。ただ志井委員長など党幹部が3人区から出馬すれば当選の可能性はある。
社民党:今の実力では議席が狙えるのは沖縄と大分くらい。ただカリスマ性のある候補者を確保できれば、現有議席くらいは狙える。
みんなの党:地方選挙では躍進しているものの、組織は脆弱で新人議員が小選挙区で勝ち抜くのは厳しい。この制度では一気に議席増が狙える。1票の格差の是正により都市部の選挙区が増えるので、そのメリットを十分に生かせる。
国民新党:元々個人票のある議員が中心なので、現有議員は3人区なら勝てる。前回落選した亀井久興議員の復活も有望になるのでメリットは大きい。
 つまり現有議席比でもっとも議席を減らす民主党が、小選挙区制度を維持しても議席を減らすのが確実で、さりとて現行制度で次の選挙の勝者が見えていないので、ほとんどの政党がメリットを感じやすいので合意しやすい。

  • 多くの議員が賛成しやすい

 ある程度当選回数を重ねて選挙基盤を築いた議員にとって、落選するリスクが限りなく低くなる。今の与野党幹部はすべてメリットを享受できる。

  • 無所属議員や新党議員が当選しやすい

 無所属でも知名度の高い候補者であれば当選を狙いやすい。実績のない新党でも当選のハードルは小選挙区制度より遥かに低い。その結果政界への新風が期待できる。
 民主党自民党の公認漏れとなった議員でも無所属で立候補して当選を狙いやすく、長い目で見れば議員の新陳代謝を促す効果が期待できる。

  • 政界再編が期待できる。

 民主党自民党の所属議員でも、離党して刺客を立てられても現行制度より当選できる可能性が高くなるので、離党しやすい。また小選挙区制度のようなデッド・オア・アライブではないので、同じ選挙区の別の候補者と同じ政党に移動しても禍根が少なく、政界再編の自由度が高くなる。

  • 有識者やマスコミが支持する土壌ができている。

 世界的に増税など国民に不人気な政策を実行できる政治体制を有識者やマスコミが望む土壌ができている。この制度は落選リスクが低く選挙を気にしないで政治ができるため、その点をマスコミや有識者が評価するだろう。
<デメリット>

 選挙区数が約半減するため、候補者調整の結果、民主党の場合前回当選した1年生議員の多くが、自民党の場合前回落選して雪辱を期す準備をしている議員の多くが立候補できなくなる可能性がある。ベテラン議員優遇のために議員の平均年齢が一時的に上がる可能性がある。ただ共倒れのリスクがなければ、民主党自民党とも3人区に2人の候補者を立てることは可能である。

  • 総選挙より首班指名・連立工作が政局の要になる可能性がある。

 この制度では単独過半数を得る政党が出にくいため、常に連立政権が前提になる。連立政権自体は現行制度でも起きやすいのでこの制度特有のリスクとは言えない。問題は小選挙区制度では選挙協力と連立政権がリンクするのに対し、この制度ではリンクしなくなりため、選挙後に予想外の連立政権が樹立し、それにより有権者の不信感が高まるリスクがある。
 ちなみにこの弊害は比例代表を基本とした選挙制度でも起こる。

  • 極端な大敗がなくなるので、与党が世論に鈍感になる。

 これはメリットの5番目とトレードオフの関係。いくら有識者やマスコミが世論を気にしすぎる政治を批判しても、やはり有権者にとってはマイナスな事項である。

  • 大連立ができやすい

 小選挙区制度は、デッド・オア・アライブで戦うために、大連立への心理的抵抗が強い。この制度ではその心理が弱くなるため、第1党が第3位以下の政党との連立協議が不調に終わると、第1党と第2党の大連立が生まれる可能性がある。もっともそのリスクは比例代表を基本とした選挙制度でも同じである。

 以上、必ずしも理想的と言えない制度ではあるが、理想的な制度など存在し得ない中では、日本の政治風土に合っていると考える。
 実際には、共産党社民党が割りを喰う可能性が高いので、その支持者から左派潰しとの批判を浴びることを予想しているが、この制度では政党の支持率が低くても、議員個人に魅力があれば3位当選が狙えるということを付け加えておきたい。

*1:自民党は西日本の地方の選挙区の一部で2人当選が狙えるとは思うが…