民主国家の弱さ

 会社員とチンピラが喧嘩しても、会社員は圧倒的に不利。公務員はもっと不利か? 別に腕力の問題ではなく、組織に属していたり、家族がいたりと下手なことができないため、まともに喧嘩しても手が出せないからである。
 日本と北朝鮮の交渉を見ていると、似たものを感じる。日本という民主国家は常に世論の動向を踏まえて交渉を行っているのに対し、北朝鮮将軍様さえOKを出せばどんな手でも使える。気まぐれな彼の心中が予想し難いのに対し、世論なんてのは極めて単純に動きが読めるので、少しでも日本を理解している北朝鮮の高官であれば、北朝鮮がこう出れば、世論がこう動き、政治家はそれを考慮せざるを得ないと簡単に読める。一方はすべての持ち牌を晒し、一方は晒さずに麻雀をしているようなもので、日本が圧倒的に不利なのは日を見るより明らかである。
 今は、経済制裁だと、声高に叫ぶ世論が圧倒的だが、万策尽きた輩の最期の遠吠えのようで、馬鹿丸出しのチープな世論は将軍様の冷笑の対象になるだけである。
 また日本は攻めに弱いのも明らかで、日本が攻撃の危機に晒されたり、北朝鮮拉致被害者が処刑されるなんてことになったら、世論は急に太陽政策に方向転換したりする。日本国民の命と北朝鮮人民の実際の命の価値は著しい格差があり、日本では1人の命が世論を大きく動かす可能性があるのに対し、北朝鮮で人民が何万人餓死しようが、北朝鮮政府の政策に影響を与えることはないだろう。
 別に日本が独裁国家に逆戻りしろということではない。確かに独裁国家の方が対外交渉上有利なのは明らかだが、一度民主主義を経験してその恩恵を受けている国民が、それを捨てられるわけはない。私も、正直言えば民主主義が冒されるぐらいなら、外交交渉で連戦連敗を続けて、国土面積が多少減っても、その方がまだマシだと考える。
 チンピラとはかかわらない方がいいと同様、北朝鮮とかかわらないことが日本が取れる唯一のまともな手なのだが、拉致された国民を取り返せないようでは国の責務を放棄したようなもので許されるものではない。そうなると、日本は特定の人に外交交渉を全権委嘱し、その交渉に対して政治家もマスコミを家族会も声を荒げない。民主的ではないが、外交交渉だけ考えればこれがベストであろう。まあ、今の日本にそうしろと言ってもムリな話であろうが。
(民主国家の弱さに対する嘆きがナチス・ドイツを生んだという歴史的教訓も忘れてはいけない。この弱さをどう克服するかというのは、民主主義を手に入れてすぐに突きつけられる課題のはずであったが、日本は60年間対峙せずに時を過ごした。)