サッカーと人種差別

 ジダンの決勝戦でのマテラッツィの頭突き。背景に人種差別発言が等と憶測を呼んでいるが。欧州サッカーにおける人種差別問題は最近注目されているが、W杯の最後の最後でこの問題にぶち当ったのは残念である。
 決勝戦の前の記事だが、こんなものがあった。

【祝祭 サッカーW杯ドイツ大会】関西大教授・黒田勇

サッカーの力と人種差別 

準々決勝4試合の2日間、国際サッカー連盟FIFA)は「反人種差別デー」とすることを宣言し、各試合前に、各チームのキャプテンが人種差別反対のメッセージを読み上げた。
 一昨年、スペイン対イングランドの親善試合で、スペインサポーターが人種差別的なヤジの大合唱、そして今年2月にはスペインリーグでバルセロナ所属のカメルーン代表エトーサラゴサのファンから猿の鳴きまねをあびせられ、試合途中で退場しようとした事件も起こっている。
 こうした事件はスペインだけではなく、全欧州に拡大し、深刻化している。さらに、この差別はアフリカ出身選手ばかりでなく、ときには日本人選手にも、さらに東欧圏の選手やイタリア南部出身の選手にも向けられる。
 フランス国民戦線党首のルペンが、フランス代表に黒人選手が多すぎると発言したように、サッカーにおける人種差別は、より大きな社会状況を反映しているのだ。
 欧州連合EU)統合後、国境を超えてさまざまな人種や文化が交じり合いつつある。さらに、EUの豊かさを目指してEU圏外から多くの違法移民も流入している。経済的に移民に支えられている一方で、欧州各国の文化の独自性や純粋性が脅かされていると考える人々に、外国人嫌悪(ゼノフォビア)が広がっている。
 植民地支配という歴史とEU統合という未来志向の政策がもたらした軋轢がサッカーという文化を舞台にして表面化しているのだ。
 植民地主義とともに世界に拡大したサッカー文化はいまや世界各地に根を張り、そこで育ったサッカーがまた欧州に持ち込まれ、現在の欧州サッカーを魅力あるものにしている。フランスもイングランドも、そしてドイツにおいても、その混交性が大きな魅力と強さであることは明らかだ。
 しかし、「アフリカに帰れ」「移民は帰れ」「ユダヤは出ていけ」という叫びと脅しは、皮肉にも、混交性の象徴であるサッカー場で、社会と共鳴現象を起こす可能性をもつ。
 これに対し、FIFAは人種や文化を超えたサッカー文化を守るために、FAREという民間のネットワークと協力している。FAREとは、Football Against Racism in Europe(欧州におけるサッカーの人種差別反対行動)の頭文字であり、サポーター団体や地域のスポーツ団体などが参加し、欧州のほぼ全域で活動している。
 毎年秋には、FAREの呼びかけにより、欧州各地のサッカー会場で、人種差別反対のキャンペーンが行われている。
 ポスターやパンフレットの配布、このキャンペーンに賛同するアナウンスなど、例えばイングランドではリーグ所属全チームがこの行動に参加している。また、サポータークラブの多くもこの行動に共鳴し、スタジアムでのパネル展示、記念品の販売、場外では子供たちの試合を主催し、人種差別反対を訴えている。
 このように日常的に差別反対の活動をしてきたFAREとFIFAが協力し、今回のW杯でもキャンペーンが実現した。
 アルジェリア出身の移民の子、フランス主将ジダンが、試合前に強く人種差別への嫌悪と反対を宣言したとき、今度はサッカーのもつ普遍的な力が社会に響き渡るのを感じた。その響きはサッカーの強さであり、また欧州社会の強さでもある。
 7月3日 産経新聞 

サッカーへの偏見

 一方で欧州特にイギリスではサッカーは労働者階級のスポーツだとの偏見も根強い。階級意識の乏しい日本ではなかなか想像しにくいが。
 サッカー界で多発する人種差別発言に関しても、「下流階級の人間はよく人種差別をする」よって下流階級のスポーツであるサッカーで差別発言が飛び交うのは当然との見方も欧州ではあるようだ。一見ワールドワイドなスポーツと思われているサッカーへの偏見が拭われていないとは不幸である。

なぜ下流の人間は人種差別をするのか?

 これは欧州の下流階級に限らず、アメリカの白人至上主義団体の構成員の多くは貧しい白人の若者だ。無知が差別を生むというえば簡単だが、それは「差別はいけない」という考えを受け入れない人間は啓蒙されていない人間だという決め事は実際に差別を行っている人間の前では無力だ。彼らは普段は社会の底辺に置かれ、合法的に差別されている。単純労働の賃金が低かったり、学歴の低い人間の賃金が低かったりするのは普遍的に合法であり、彼らはその現実を受け入れるしかないのだ。彼らは「黒人と白人」とか「男性と女性」といった別次元の優劣関係を持ち出し、一時的に自分たちが優位層にカテゴライズされる瞬間に満たされないイライラを発散させているのだ。しかし彼らの持ち出す優劣関係は普遍的に非合法なのである。