本音垂れ流し言論

 社会的役割や地位が伴う人間には適切な言論が求められる。これは周囲からの役割期待であると同時に、自身のステイタスの維持のためにも必要な行為である。そういう人間が適切な言論から逸脱する言論を発する行為は、人間味を出し好感度を上げるという恣意的な目的で昔から稀に行われることがあるが、近年の日本ではバックラッシュとしての本音言説がよく見られる。
 これは戦後の日本において、より民主的な発言をする人間にステイタスを与える風潮が醸造されたことにより、言葉狩りのような状況に追い込まれた人々の鬱積した気持ちが爆発し、バックラッシュとなったものと思われる。石原都知事三国人発言がスルーされたのが特徴的だ。
 ただこの本音垂れ流し言説が余りにも蔓延し、麻痺してきたようにも思われる。最近では東横イン西田憲正社長の発言が記憶に新しい。彼は不正改造の指摘を受けた後の記者会見で「年に1〜2人しか泊まらないし、通常の客には使い勝手が悪い」と発言し、「時速60キロ制限の道を67〜68キロで走ってもまあいいかと思っていた」と開き直ったような発言を行った。その頃ちょうど小さな会社を経営している人と飲み会の席でこの話題になり、「よくぞ言った」という感想を聞いた。ようは行政官は障害者問題に熱心か=優劣で、とにかく無意味なほどにバリアフリーだの要求するという話であった。弱者に優しい→良いこと→これを推進する人間は○でそうでない人は×というロジックへの反発は、90年代以降の社会の右傾化に関するすべてのロジックに通ずるもので、またバックラッシュかよ〜と思った。
 しかし実際の世の中の反応は西田社長に厳しかった。正直言って私も西田社長はちょっとかっこ悪いと思った。ちょうど堀江事件の後だったので、そのルールのいい悪い以前にルールというものを軽視する人間を卑しむ空気があったからであろうか。本音を露呈して痛快な物言いをする人間を格好いいと思う風潮に少しは歯止めがかかった気がした。テレビ番組では宮崎哲弥が小泉さんが作り出した悪い風潮と皮肉っていたが。
 本音垂れ流し言論を格好いいと思う人間は、自分自身も本音垂れ流しを行う。社会的役割から開放された状況においてはそれは何のお咎めも受けないが、私はこういう行為はマスターベーションを他人に見せている極めて恥ずかしい行為だと思っているので自制を心がけている。