なぜ正社員から非正社員への置き換えに賛成したのか

 90年代後半、私もネオリベ的風潮、言動に雷同した事実があります。その中でなぜ正社員から非正規雇用への置き換えに賛成する流れができたのか、私の自己反省も踏まえて話してみたいと思います。
 日本型経営においては会社における低付加価値、単純労度を誰が担っていたかと言うと、多くは女性社員と新入社員でした。女性社員に肉体労働はさすがにさせられないので、商品管理や配送のような単純労働は男子の新入社員が担っている場合が多かったのです。もちろん男子の新規高卒がその役割を担うケースが多かったのですが、多くの会社では大卒社員にも「現場経験」の名の下、新入社員の時に単純労働、肉体労働を担わせるケースが多かったのです。ちょうどバブルが弾けた直後ですから、新規抑制が絞り込まれ、本来なら中軸業務を担う年功になっても依然として単純労働から抜け出せない不幸な若手社員も出現しました。
 この頃、流通業や外食産業は率先して非正規雇用社員を採用し、吉野屋などは「店長がバイト」だったり、ステーキのあさくまではパートのウェイトレス上がりの女性社長が出現し話題になりました。私の勤めている会社では「正社員以外には現金は触らせない」という不文律があり、ほとんどの業務を正社員は担っていました。こともあろうに、当時の私はこのような慣習に対し批判的な立場を取りました。
 外食産業に行った同期の人間は入社2年目でバイトを20人仕切る立場にいるのに、私は会社の最下層でこき使われている。はっきり言って羨ましかったのです。自分の会社でも単純肉体労働を非正規社員に置き換えれば、新入社員はすぐに会社の中軸業務を担えると思い、正社員から非正規雇用への置き換えを支持したのです。
 私は常々、労働組合も正社員から非正規雇用への置き換えに加担したと批判していますが、当時商品管理や配送などの部署はアウシュビッツと呼ばれ、社員を嫌がらせ異動させる為に利用されていました。プライドの高い営業マンがこのような部署に異動させられれば、プライドがズタズタになり、多くの場合は辞職します。労働組合を擁護するつもりはないのですが、このようなアウシュビッツから正社員を救出し、非正規雇用社員に担わせるのは一つの正義だったのかも知れません。
 正社員から非正規社員への置き換えを支持したことに対し、安直であったという反省がある一方、元のシステムに戻すのも相当難があるとも思っています。今の新入社員をもう一度長い下積みをさせるべきとも思っておりません。ではどうすればいいかと言われると、難しいのですが、企業は社内から単純・低付加価値労働をできるだけ排除すべきと思います。もちろん限界はありますが……。