ホワイトカラー・エグゼンプション導入はなぜ失敗したのか?

 もちろん今国会での法案提出が見送られただけで、参院選後に再び導入が議論される可能性があり、導入に失敗したとは言い切れないが、世論が政権に吸い寄せられる光景を長らくみてきた私にには、久々の「世論の反発」を見た気がする。
 現時点で、何が失敗であったのか考察したい。

 小泉時代末期、特に郵政選挙以降、ネオリベラリストの中に「ネオリベ」が国民に浸透したとの過信が生まれた。だが支持されていたのは小泉の発する「小さい政府」「民でできることは民で」といったキーワードだけでたった。
本来的に「弱者に厳しく!」「企業に活力」といった思想まで支持している人は少ない。もっとも後者の剥き出しのネオリベ思想は、小泉本人の口から出たことはなく、安倍政権以降になって取り巻きの新古典派の学者連中や財界人から盛んに出るようになった。

  • 経済界が前面に出すぎることへの反発

 経団連奥田会長時代から、積極的な政策提言を行っているが、御手洗会長は自らのビジョンをマスコミを通じて発表するなど、かなり政治的な行動を行っている。秘密裏に与党に圧力をかけるというかつての財界活動に比べて健全と言えなくもないが、明らかに過信があったと言える。
 確かに、郵政選挙の頃は、財界の意見が有権者に支持されて、労働組合は「守旧派」として批判されたように見えたかも知れない。しかしそれは錯覚に過ぎない。

  • 政府の無責任

 政府の各種諮問会議の人選は近年極端である。最初から超ネオリベな結論を出して下さいと言わんばかりの面々である。最近、自民党は選挙を意識して「働くものの立場も考えなければ」等と言い出しているが、それなら最初からバランスを考えた委員選出して、バランスの取れた政策提言が出るようにすればいい。
 国民に不人気な法案でも体を張って通す気があるなら、それはそれで結構だが、やっていることが余りにもチグハグである。

  • 手法の甘さ

 私は小泉純一郎の政治手法は嫌いなので、勧めたくはないが、小泉なたホワエグ有権者に支持させるために、こういうプロパガンダを使ったであろう。例えばマスコミや金融関係などで働く高年収サラリーマンへの嫉妬心を掻き立てる方法である。又は「公務員に真っ先に導入します」なんていう言い方もあっただろう。人々は恵まれている人を妬むのは大好きであるから、ほいほいとこのプロパガンダに乗るかも知れない。
 ただ、超ブルジョア階級出身のボンボン晋三ちゃんがプチブルである高額給与所得者を叩くのは明らかにペテンであり、違和感を覚える人も多いであろう。むしろ元来自民党支持傾向の高かった高額所得サラリーマンや管理職級公務員の自民党離れを招くリスクの方が高いかも知れない。

  • ネオリベが支持されることの難しさを心得ていない。

 根本的に弱者に厳しい政治が国民に支持される状況を作るのは非常に難しい。そのためにあらゆるペテンが使われてきたのである。アメリカの場合、宗教右派に近づくことにより支持基盤を築いてきた。アメリカの保守層は自らが不利益になる政策を掲げていても、その社会的、文化的に保守的な政策に惹かれて共和党に投票する。
 日本でも、財界寄りの政策は嫌だが、安倍首相が保守的だから支持を続けている保守派の有権者は多いと思われるので、状況は似ている。経団連の御手洗会長が経済界の利益とあまり関係ない憲法や教育に言及するのは、保守的な人々にネオリベを支持してもらうためのリップサービスであろう。ただアメリカの場合は、政府の役割を小さくし自己責任を重視する考え方が西部開拓時代からの伝統であり、ネオリベ宗教右派との利害が一致しやすい。日本の場合どうかと言うと、ネオリベは外来思想であり、日本の共同体主義色の強い保守主義とは利害が一致しにくいように思われる。
 参考まで、アメリカのリバタリアンが、なかなか国民に支持されない中でどうやって支持されてきたか、以下のエントリーが詳しい。
  http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=200