地方首長選挙は盛り上がるが……

与野党相乗り候補と共産党候補しか立候補せず、ほぼ最初から結果が決まっていた地方首長選挙が熱い。滋賀県知事選挙で嘉田由紀子候補が与党系候補を破ったのが先鞭となり、民主党が与党系候補との相乗りを原則禁止し、福島県沖縄県、福岡市などで与野党激突構図の選挙戦が実現し、先週は宮崎県知事選挙であのような結果となった。
 このような流れに対し、ニュースソースとして無価値であった地方首長選挙が活性化しマスコミは大歓迎の姿勢だし、有権者も投票所に足を運んでも仕方ない状況から開放され、主権者としての存在価値が生まれたので多くの人はプラスに評価しているだろう。ただ、民主党系が対立候補を出すにせよ、無所属候補が立候補するにせよまだまだ高いハードルが存在している。
 そもそも地方における対立軸は何なのか、「財政再建優先」VS「積極財政」なのか、それとも55年体制時代の保革対立を継承する「インフラ整備」VS「福祉」なのか、与党系候補も総花的な政策を掲げてくるので、よほど極端なハコモノ偏重政治でも行ってくれないと対立軸が際立たない。その点、汚職のあった福島県や宮崎県や公共事業の是非が争点になった滋賀県はわかりやすかった。
 しかし来月の愛知県知事選はどうか?現職の与党系の神田知事は目立った失政がなく、民主党が擁立した石田知事は攻めあぐね、支持を獲得できないでいる。この選挙はまず現職が勝利し、民主党小沢一郎神話は終わったとかマスコミには惨々書かれるであろう。また与党に相乗りしたらしたで宮崎県の時のようにマスコミに叩かれる。相乗り禁止というのはパンドラの箱なのだ。ついこの前まで地方首長選挙与野党相乗りが当たり前だったのをマスコミも有権者は忘れてしまい、民主党が独自候補を擁立するのは半ば義務のような見方を既にしてしまっているのである。
 仮に当選しても少数与党での運営を迫られる。今年で引退する岩手県増田寛也知事は小沢一郎(当時新進党)に担がれ自民党推薦も元副知事の候補を破り知事の座についたが、強いリーダーシップを発揮するために自民党を与党に組み入れ、最後は小沢氏とは距離を置き、小泉内閣の諮問委員等も勤めた。彼などは地方自治与野党が対立するものではないとはっきり言い切っている性善説に立てばこの主張も強ち誤りでなく、与党系候補を破った民主党系首長も、少数与党での運営に限界を感じ、次第に相乗り志向を強め、また与野党相乗り構図を復活させるとも限らない。
 民主党がダメでも今回の宮崎のように無所属候補が台風の目になることもある。ただよく考えてみると、政党の支持を受けないで当選できたケースは候補者が知名度の高い有名人であるとか、かなり限定的なケースだ。そのような候補者が立候補する確率はそう高くはない。仮に当選できても議会がほとんど野党で、成果を出せずに終わった首長が多い。
 結局、都市部や一部の自治体を除いて、自民党や系列の議員ばかりなのである。地方議員選挙などは都市部や一部の自治体を除いて政党間での政策争いが起こりにくく、未だに地縁血縁選挙の性格が強い。この構造は一朝一夕に変わりがたく、今の地方首長選挙の盛り上がりもにわかに終わるのではとの疑念が拭えない。