同一労働同一賃金実現の言葉に騙されるな〜なぜ同一労働間賃金格差が生じるのか〜

 近頃、ほぼ正社員と同内容に従事する非正規雇用者が増え、同一労働間賃金格差が問題になっている。同一労働同一賃金を法的に担保しようという動きも見られるが、なぜこのような問題が起きるのか余り考察されていない。実態を踏まえて是非を考えなければ、なんとなく同一労働同一賃金の実現が格差是正の特効薬であるかの錯覚に陥る。これは明らかに罠であり、警鐘を鳴らしたい。

同一労働間格差は昔から存在した。

 民間企業は製造業、サービス業ともピラミッド構造から成り立っている。ごく少数の経営陣を筆頭に、中間に少数の管理職者が存在し、土台に多数の現業員やセールスマンやら販売員などが位置する。最近では大卒新卒社員をいきなり幹部扱いするような企業はほとんどなく、多くは下働きからスタートさせるが、末端の要因から逆算して採用すると、将来管理職ポストが膨張し企業が破綻してしまうので、多くの企業では幹部候補の新卒と、下働き要員を区分して採用する。多くの場合は学歴別採用や総合職、一般職の区別がそれに当るが、それは公務員のキャリア制度よりかなりゆるいもので、下働き要員の社員が抜擢されたり、幹部候補で採用されたが成績不振で昇進できない人もいる。若いうちはみな下働きをしているのだが、幹部候補で修行として下働きをする社員と、一生下働きしている社員の間で昇給スピードが異なる。これが古典的な日本式雇用形態における同一労働間格差である。ただかつての日本は世界で最もブルーカラー/ホワイトカラー間、或いは高卒と大卒間の賃金格差が小さかったため、この格差はさして問題にならなかった。

下働き業務の非正規雇用への置き換え

 かつては最末端の補助業務に限られた非正規雇用であったが、90年代になると企業は高卒などの新卒正社員を主に充当していた仕事を非正規雇用に置き換えを始めた。特に熟練度が低く、退社されても簡単な訓練で補充可能な業務に、企業は高い給料を払うのは無駄だと考えるようになったのである。その結果企業の下働き業務には、非正規雇用社員と正社員の下働き要員&下積み中の幹部候補との間で大きな格差が生まれた。

同一労働同一賃金ならいいのか?

 同一労働同一賃金が法制化されたらどうなるか。人件費引き下げに血眼になっている経営者たちは職種別賃金格差を拡大させて凌ぐであろう。最近の風潮は熟練度が低く人員代替が容易な部門の賃金は低く抑えられてしまう。世の中には運転士や検査員のように仕事は単純だが、ミスが許されないという仕事もあつのだが、そのような仕事まで一律に低い評価が為される。また同一労働同一賃金が障害となって、幹部候補生が現場を経験するようなキャリアプランは衰退するであろう。
 製造現場は質の低い人材の巣窟になり、ただでさえ現場のミスの続発やモラルダウンが指摘されている日本の製造現場の崩壊が進行する危険性がある。トラックやタクシーの運転士は益々DQNの巣窟になり、交通事故は後を絶たなくなる。また現場を知らない管理職者、経営者が増え、企業の内部統制力も低下しかねない。
 残念ながら新古典派経済学者の多くに、職種別賃金への明確化を支持し、また非正規雇用の賃金を担保すると同時に正社員の既得権を剥奪すべきとの意見が散見される。本当にそれでいいのか?
 人件費引き下げありきの思考で職種別賃金の議論が始まるのは非常に危険である。