少子化対策の切り札は国民啓蒙というサイレント・オピニオン

 柳沢発言に関するエントリーを片っ端から読んで気付いたことがある。直近では柳沢大臣に擁護的でマスコミや野党を批判するエントリーが増えているのであるが、この風潮の中で、少子化対策育児支援などの政策でなく、国民啓蒙の方が大事であるという意見を持つ人がかなりいるということだ。子どもを産まない、或いは産まない自由という意見を最近の身勝手な若者の意見と断罪し、啓蒙して子供を産ませることが最大の少子化対策という考え方である。
 ただリプロダクティブ・ライツを制限するような発言をするのは相当勇気のいることで、コメント欄や匿名掲示板ではストレートな本音を見ることができるが、ブログ等ではオブラートに包んだ発言となり、本音を露呈できない部分をマスコミや野党を批判することで解消している感じがする。「進歩的強迫観念」がジェンダーの分野では特に重くのしかかっており、未だに本音が言えない状況にあるのであろう。
 その状況は自民党にも言える。少子化対策真正保守政権と言われた安倍内閣になってから、育児支援一辺倒から国民啓蒙色を強めてくるのではあるが、どこか歯切れが悪い。例えフェミニズムに違和感を持っている保守的な女性であっても、さすがにリプロダクティブ・ライツを制限するような保守思想には拒否感が強く、女性の支持頼りの自民党は踏み込めないし、党内もそこまで保守思想一転倒ではないから、リベラルなジェンダー思想を持った意見にも引っ張られる。更には育児支援を売り物にしている公明党の顔も立てなければならない。結局、安倍内閣育児支援は「あまり育児支援中心の社会政策に傾斜したくないけど、でも支援もしなきゃ」的な中途半端な施策が出てくるのである。柳沢発言はその中途半端さの具現であったに過ぎない。育児支援の包装紙の中に国民啓蒙思想が隠れているのが見えてしまったために、多くの人が違和感を覚えてのである。
 最近のマスコミは本当に論点整理が下手だ。柳沢発言の賛否、或いはそれに対する賛否の裏には、少子化問題対策に対する路線対立があるのだ。揚げ足取りとかそういう問題ではない。野党も論戦が中途半端或いはイシューが理解できていないから揚げ足取り取りとの印象を持たれてしまうのであって、もし国民啓蒙派と本気で戦う意思があるのであれば、自民党寄りのマスコミや世論の批判などいちいち気にせずに、大臣の背中に土が付くまでひっくり返すべきである。 自民党内の保守派や、本音を潜在化させている国民啓蒙派も、批判を恐れずに声を上げればいい。
 そうは言っても時間は余りない。政府が言っているように、第2次ベビーブーム世代が30代であるのもあと5年の間だけである。