安倍内閣の「成長力底上げ戦略」が虚しく聞こえる理由

 安倍政権の「成長力底上げ戦略構想チーム」が基本構想をまとめたそうだ。国民の「職業能力」向上による就業機会確保が目玉で、職業訓練により国民により付加価値の高い就業チャンスを与えることで、国民所得を向上させるというものだ。
 格差問題の税制に対して「職業教育」を最大の処方箋としたのはイギリスのブレア政権が有名である。サッチャー時代の極端な新自由主義政策の歪みを是正したと評価されており、基本的にはこの施策の模倣であろう。
 この当時のイギリスは、情報産業や金融などでの労働ニーズが高まっていたものの、労働需給のミスマッチで求職者がおらず、多くの国民が教育を受ける経済的余裕がなく、単純労働に対する求職に甘んじ、せっかくの所得増大機会が失われていたのである。この場合において政府の責任における職業教育は効果的であった。
 今の日本はどうであろうか?付加価値の高い職業へのニーズは高まっているものの、政府により付加価値の高い産業を育成する意思が希薄である。それより小泉改革負の遺産は、私が何度も言っているように、流通業やタクシーなどの運輸業といった低付加価値産業の規制緩和を実施し、低賃金労働のニーズを増大させてしまったことにある。今産業界は安い労働力がとにかく欲しくて欲しくて仕方ないのであって、今の状況で低賃金労働者を高賃金職種に異動するという流れが非常に起こりにくいのである。
 アメリカであれば、貧困増があふれ、いくらでも移民が流入してくる状況において、低付加価値産業も規制緩和で大いに発展させる意味はあるのであるが、日本は限られた労働資源でいかに付加価値を創造するかという政策を取るべきであって、低付加価値産業の膨張には歯止めをかけ、より高付加価値産業に特化した成長戦略を取るべきであった。その辺政府御用のアメリカかぶれの経済学者や経営者の意見を買い被った政府の責任は重い。何しろ、彼らはそのうち自民党に圧力をかけて、外国人労働者の規制を撤廃しようとしているのであるから。
 結局、「職業訓練」と同時に産業構造を低付加価値から高付加価値産業へのシフトを行わなければ、この処方箋は意味を成さない。ただこの戦略を明確にして既に実践している国では、金融業が頭でっかちになり国事態が虚業化しているという問題も発生している。この問題はいづれ解決せねばならないが。