現在の教育不信は安倍教育改革のマッチポンプのせいでは?

  • 社会意識調査:「悪い方向に」教育がトップ 内閣府発表

内閣府による社会意識に関する世論調査結果、「悪い方向に向かっている分野」の変遷 内閣府は3月31日、社会意識に関する世論調査結果を発表した。現在の日本の状況について「悪い方向に向かっている」と思う分野を複数回答で聞いたところ、教育が前回(06年)から12.3P増え36.1%となり、98年にこの質問を盛り込んで以来最高で、初のトップとなった。高校の履修不足問題や、相次ぐいじめ自殺などが影響したとみられる。医療・福祉32.9%、地域格差26.5%も10P以上の増加で過去最高を記録した。
 教育と答えた人を男女別にみると、男性36.7%、女性35.6%。年代別では男女とも30代がトップ(男性47%、女性47.8%)で、20〜40代の男女がいずれも4割を超えるなど、子育て世代の教育不安を裏付けた。
 3/31毎日新聞より抜粋

 これだけではまったくよくわからない調査だ。個人的に解釈する限りでは「教育が悪い方向に」という意見には「愛国主義教育路線への反発」や「戦後民主主義清算が不十分」といったイデオロギー的な意見は主でなく、多くは「改革の方向性のズレに対する率直な違和感」だと思う。黙然日記さん教育基本法改定や教育再生会議第一次報告の反発の意見とも、そこで言及されている産経新聞の主張も嘘ではないが、主因ではないと思う。
 安倍政権発足直後も、「今何が問題か」といった調整に対して「教育問題」を挙げる意見が多かったが、この時からかなりよくわからない状況であった。この時、相次ぐいじめ自殺や、単位未履修問題で、国民は「今の教育は問題だ」となんとなく思っており、なんとなく「教育改革まったなし」の空気が醸成されたのである。今回の調査はその裏返しではあるが、乱暴な政治を行ったツケが回った。
 安倍内閣の教育改革はお行儀が悪すぎた。「いじめ問題」のクローズアップ、「単位未履修問題」も為政者側のマッチポンプと言っていい。単純な一般市民はいとも簡単に「教育不安」に駆られ、教育改革まったなしという世論を形成する。また多くの人は「改革の中身」の議論は面倒なのでスルーしてしまい、「とにかくよくして欲しい」と安直な意見をのたまい、「やる気のある政治家」「実行力のある政治家」を支持するようになる。
 これまで我々が騙されてきた道と同じだ。小選挙区が導入されさえすれば政治が良くなる、郵政民営化が実現されれば日本がよくなると騙されてきたと同じ構造ではないか。
 安倍総理や考えを同じくする政権中枢の同士の関心は、もっぱら教育基本法改革やサヨク教育の殲滅といったイデオロギー的なものであって、教育基本法改正や教員の免許制導入などである程度目的を達してしまえば満足してしまう。正直「いじめ問題」など元々関心はなく、まだ問題解決に対し何の処方箋すら提示していないこの問題に今後本気で取り組むことは期待薄である。可燃性の高いうってつけの物として利用されただけである。マッチで火を付けたのはいいが、火を付けるのだけが目的の極めて無責任な政治である。
 もしかしたら愛国心教育が実践できればすべての教育問題が解決するなんて、バカを騙すための詭弁に利用するだけならまだしも、本気で政治家自身もそう考えているのではないかと不安になる。
 「現状が良くない」という世論を権力側が自ら醸成し、国民の間に改革ムードを醸成し、改革権力がそれを推進力として一気に改革を進めるという手法は昨今常套手段になりつつあるが、このやり方はデリカシーがないと政治不信に直結しかねない。
 国民はイデオロギーにはある程度寛容(むしろどうでもいいと思っている)で、「いじめ問題」「学力問題」など教育の諸問題でそれぞれ明確な改革ができるのであれば、ついでにイデオロギー性が介在してもある程度許容する。ただ愛国心が涵養できれば子どもの学力が増進し、いじめ問題も解決できる等と思ってはいない安倍内閣はそれを自覚し、個別問題に真剣に対峙しなければ痛いしっぺ帰しに遭うだろう。自分たちのやりたい改革だけやって、その他のことを置き去りにした瞬間、許容したはずのイデオロギー面に不信の矢が刺ささる。
 左翼政党が信頼を喪失したのも、多分に環境問題や人権問題など周辺分野の問題解決を約束しながら、結局やりたい改革しかやらなかったからである。