なぜ天下りがなくならないか

  1. 自民党の政権維持装置のシステムとなっている。
  2. 産業界にとってメリットがある。
  3. エリート層の容認意識。

 この3つの要因を取り除かなければ官僚の「天下り」はなくならない。ぞれ以前に自民党は今後もこのシステムをなんとか国民の批判を浴びないようにしながら、何とか残したいと考えている。
 それどころかエリート官僚や官僚出身政治家は、マスコミが庶民を焚きつけて騒いでいるだけとぐらいにしか思っていない。マスコミ人は一流大学の文学部や準一流大学出身者が多く、超エリートである官僚に対する独特のコンプレックスがある。その捌け口として紙面で官僚バッシングを行い、非エリート層を触発しようとしていると、彼らは達観して見下しているのである。
 それはともかく、「天下り」の背景を紐解いてみたい。

自民党の政権維持装置

 ちょうどこんなニュースが入ってきた。

 国土交通省発注の水門工事をめぐる談合事件で、旧建設省ナンバー2だった元技監が、01年の参院選での同省OBの自民党候補に対する応援の見返りとして、特定の水門メーカーに落札させるよう、業界側に指示していたことが、国交省の内部調査などでわかった。選挙と談合をめぐる政官業の癒着が、改めて浮かび上がった。
 調査報告書などによると、豊田高司・元技監は退職後、業者間の談合に「お墨付き」を与える役割を担い、新設ダムの水門工事をめぐって01年末ごろ、熊本県のメーカーが受注できるよう、業界の世話役に要請した。
 すでに受注予定企業は談合で決まっていたが、豊田元技監は、同年の参院選で、このメーカーが自民党の比例候補、岩井国臣議員の選挙活動に協力したことを理由に、変更を求めたという。
 岩井議員は旧建設省の河川局長を務めた後、95年に初当選。01年の参院選で、豊田元技監は岩井議員の後援会副理事長を務めたという。岩井議員は約28万票を得て、再選を果たした。

今更驚く話ではない。参院選自民党は官僚出身候補を立て、多くは高得票を得て上位当選する。投票をしているのは出身官庁関係者と業界団体である。これらの候補者はよく「業界団体代表」「省益代表」と言われる。
 01年参院選自民党の当選者を見ると。

1 舛添要一 1,588,262 国際政治学
2 高祖憲治*1 478,985 郵政省 特定郵便局
3 大仁田厚 460,421 プロレスラー
4 小野清子 295,613 元体操オリンピック代表
5 岩井国臣 278,521 建設省
6 橋本聖子 265,545 元スピードスケートオリンピック代表
7 尾辻秀久 264,888 日本遺族会
8 武見敬三 227,042 日本医師会
9 桜井新 218,597
10 段本幸男 207,867 農林水産省 土地改良区
11 魚住汎英 197,521
12 清水嘉与子 174,517 看護協会
13 福島啓史郎 166,070 農林水産省
14 近藤剛*2 160,425 経団連
15 森元恒雄 156,656 自治省
16 藤井基之 156,380 厚生省 日本薬剤師会
17 山東昭子 147,568
18 小泉顕雄 142,747 浄土宗他仏教関係
19 有村治子 114,260
20 中原爽 104,581 歯科医師
21 中島啓雄*3 95,109 国鉄 JR
22 藤野公孝*4 94,332 運輸省

 岩井議員以外にも、特定郵便局関係で郵政省OBの高祖憲治を筆頭とする業界・省益代表が圧倒的に多く、他にタレント候補、宗教系候補、衆議院からの鞍替え候補が並ぶ。
 業界団体がこれらの候補者を支援するのは、先の事件でもわかる通り、選挙での応援によって見返りがあるからである。官僚や官僚OBが自民党比例区に候補者を送り込むのは、天下りシステムを維持したいからである。自民党には彼らの利益を担保することにより、確実な得票がある。
 政官財の癒着の最も醜い部分こそ、参院自民党なのである。

産業界にとってのメリット

 これについては経団連の奥田前会長がはっきり言っている。天下りは官庁から企業が押し付けられいるのではなく、企業にもメリットがあるから受け入れているのである。
 日本はなんやかんや人治主義的なところが残っており、官庁OBを受け入れると、行政折衝や情報収集上何かと便利だ。企業側のニーズに官僚が付け込み、天下りを受け入れた企業が有利になる状況を温存するどころか、更にそういう要素を強める行政運用をしているのは由々しきことである。

エリート層の容認意識

 産業界が天下りを容認するのは、単に産業界にとってもメリットがあるだけでなく経営者の私情もある。一流大学を出て民間企業に就職したエリートの多くは30台半ばで年収1000万円を手にし、40台で年収2000万円を手にしている人もザラにいる。しかし同期で自分より優秀な人間が官僚になって、自分より遥かに薄給で昼夜働いている姿に同情の念を持っている。
 官僚は現役時代は苦しいけど、退官してから取り返すんだ。という空気を容認する空気は特にエリート層の中で強い。天下りによって官僚出身者が高給を得られなくなると、優秀な人間が国家公務員を志望しなくなると言う人も多い。
 私はこのような考えは甚だ疑問で、高給目当てならいくら優秀でも公の仕事に就いて欲しくない。多少試験の点数が低くても志の高い人に公務員になってもらえばいいだけだと思う。

*1:辞職

*2:日本道路公団総裁就任に伴い辞職

*3:繰上げ当選

*4:繰上げ当選