タクシー料金値上げ ―消費者利益原理主義に洗脳された都市住民―

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  • 都内タクシー7%値上げ認可へ 初乗り上限710円に 10/5産経

 このタクシー運賃値上げの問題に関してもネガティブな意見ばかり目立つ。だいたい、あなたはタクシーに月に何回乗るのかね?
 日本の大都市住民は90年代以降、財界やアメリカを背景にしたマスコミに洗脳され、消費者利益原理主義者に変質してしまった。「価格破壊」という言葉が流行し、格安なサービスを提供する企業経営者が無条件に賛美された。それにより様々な規制撤廃を是とする国民世論が形成され、価格破壊と同時に進行した「賃金破壊」に対しても無批判となっていった。
 いつの間にか日本には低賃金労働者を利用した格安サービスが蔓延し、求職者の多くが低賃金労働にしかあり付けない惨事になったのだが、低賃金動労者ほど低賃金サービスを歓迎するという宿命で、彼らは「消費者利益原理主義者」であり続け、この悪魔のスパイラルが自分を苦しめていることに永遠に気づかないのである。
 それにしても、なぜみな「消費者利益原理主義」の呪縛から開放されないのか?

利用者−高所得者 労働者−低所得者

 このような構造の産業において値上げが実施されれば、更に富んでゆく高所得者の富みを低所得者層に分配できるはずだ。それも、政府による所得再配分政策を経ないで、あくまでの民の世界の中で所得再配分ができるのである。私は格差が拡大してゆく社会に対して常にネガティブな評価をしているが、さりとて今さら政府の機能を強化して強力な所得再配分政策を遂行するのもどうかと思う。その中でタクシーの運賃値上げは実にうってつけではないか?
 もちろん、政府にタクシー料金を値上げするように誘導しろと言うつもりはない。ただ値上げを希望する事業者には原則値上げを認めさせればいい。
 もちろん私の意見に批判はあるであろう。よくあるのが、値上げした分はタクシー会社の利潤になり従業員に還元されないのではないか?元々サヨクをやっていて消費者利益原理主義者に転向した人にありがちな意見だ。「企業はつねに剰余利益を搾取することを考えている」という企業性悪論の残り香がする。もちろん悪魔のネオリベラリストは、インフラ局面においても常に企業先富論を説き、人件費抑制の魔の手を決して緩めようとしない。注意が必要なには確かだ。
 もう一つは、「値上げによって客離れが起き、結局増収にならない。」という理論である。ただタクシーの値下げが相次いだ90年代中盤から今日に至るまで、タクシーの需要は増えていない。値下げすれば需要が増え、値上げすれば需要が減るという単純な動きは見られない業界なのだ。特に格差の拡大により、タクシーを平気で使う層とまず使わない層が分離し、値段を気にしながらタクシーを使うという中間層のボリュームは余りない。
 あとは、病院に行くお年寄りがタクシーを使っている。その人たちが困るという話が出るであろう。それはそれでタクシーチケットの補助金増額等の施策を打てばいい。行政コストの負担を糾弾されると思うが、「タクシー運転士」という非常にボリュームの大きい労働者層の所得が増えることによる行政のメリットの方がはるかに大きい。多少行政コストが増えることがあっても吸収して余りある話だ。