本当に農業保護が非で自由貿易が是なのか?

農業保護を批判するのはいいが、池田信夫は持論を明らかにしてから批判すべきだ。

 彼の過去のエントリーを見る限り*1では、リカード国際分業論を信奉しているようだが、これを金科玉条としていいのか、まず議論すべきではないか? 彼の文章のように特定の政策の問題点だけ論うロジックは安易に同調したくなってしまうものであるが、批判者が由としている考え方の是非も併せて議論し、それぞれのリスクを比較しないと事を見誤る。
 私はリカードを一面では評価してはいる。彼の理論により、世界が平和で安定するニーズが高まり、先進国が戦争リスクを回避するようになった。今でも戦争になった方が儲かる経済も存在するが、リカードの考える利益は世界平和が前提であり、平和である方が得をする人が圧倒的に多くなった為に、戦争が発生しにくくなったのである。
 ただ食料安保論も無視できない状況になってきた。食料安保論も大戦中は当然の理論であったが、戦後は外交努力でリスクは分散できるような思想が生まれ、国際分業論=平和理論、食料安保=戦時理論のような受け止め方をされるような傾向が見られた。
 そうは言っても、殆どの先進国は水面下では食糧安保理論を保持して食料自給体制を堅持しているのではあるが、日本は戦後平和理論を受け入れ、食糧自給体制から決別した。
 今は環境リスクなど新たな食料リスクが認識されるようになった。今日的には戦争リスクより、環境リスクの方がはるかに大きな問題となっている。世界的な食料不足が生じ、売り手市場になると、輸入国の立場は非常に弱くなる。また中国が食料輸出国から輸入国に転ずるようになると、情勢も一遍するであろう。食料輸入国が増え、相互に食料確保合戦になる。日本が札束にモノを言わせて食料を優先的に確保できる力が永続できるのか保証はない。
 食料自給論を批判し、自由貿易体制支持の立場を取る人は少なくない。マスコミは大都市に偏在し影響力を発揮するため、この意見が拡大される。在京メディアは90年代ほどの偏りはないが、概ね自由貿易主義に好意的である。またエコノミストや経済学者の中では圧倒的に自由貿易論者が多い。結果的に国際分業論自由貿易のリスクについて余り問題提起されることがないのである。農業保護の問題と併せて、自由貿易の問題点も併せて冷静に考える必要があるのではにか。