民主党を批判できなくなった福田自民

 福田政権以降、自民党の求心力が緩み、様々な意見が噴出するようになった。本来ならば自民党民主党の国会内での論戦を拝むところであるが、自民党民主党の政策差より自民党内での意見差が大きいという状況がことのころ多く散見される。その好例が最近話題になっている『埋蔵金論争』であろう。
 事の発端は与謝野前官房長官率いる自民党財革研が『歳出削減などにより増税せずに15.3兆円もの財源を工面できる。』とした民主党政権公約*1に対し、『霞が関埋蔵金伝説の類に過ぎない』と切り捨てたことに拠る。ところが、これに身内の自民党内から反論が噴出した。小泉―竹中時代の経済政策を継承する中川元幹事長らいわゆる上げ潮派の面々である。二大政党が『増税による財政再建』と『歳出削減優先』で国会論戦が繰り広げられると思いきや、自民党内で意見が対立し、これが面白いのでマスコミは盛んに自民党内の揉み合いを報じている。中川元幹事長は与謝野前官房長官増税派に消えると言わんばかりの強烈な攻撃*2を行っている。元々は民主党が石を投げたはずなのだが、既に民主党の政策等どうでもよくなってしまっている。
 これだけ見れば、自民党上げ潮派の人たちは民主党と共闘して、徹底した歳出削減をやってもらったらいいと思えるが、民主党はムダな歳出を削減し、その分社会保障を充実させろうという『予算の使い方の見直し』なのに対し、上げ潮派小泉時代の『聖域なき構造改革』の精神を継承し、社会保障も例外とせずに歳出削減を徹底し、その分減税または財政再建に回す考えである。上げ潮派というのは入口では民主党に近いが、出口ではむしろ民主党と対立し、与謝野氏らの財政再建派と余り変わらないのである。
中川元幹事長はその出口部分では、幹事長時代は率先して民主党の政策を攻撃する急先鋒であった。

 年金問題では、幹事長時代中川氏は民主党が提唱する税方式を『半分の人が年金を貰えなくなる。消費税が大増税される。』と徹底批判している。ところがその自民党も最近になって税方式を是とする意見が出るようになった。

 また農業政策においては、民主党の所得保障政策を『バラマキ』と終始批判してきたが、福田政権になり、自民党も農業の大規模化・競争力重視の政策を修正し、農業全体を手厚く保護する政策を矢継ぎ早に打ち出している。

 自民党参院選民主党と対立していた政策のほとんどで、民主党の政策をかなり取り入れており、既に参院選来の政策論争民主党を攻撃する材料はない。
 選挙後に大きな論争になり安倍内閣崩壊の一因となったテロ対策特別措置法においても、10月初旬に民主の小沢代表がインド洋上での給油に代りアフガンでの民生支援を行い、その一環としてISAF自衛隊を参加させるとの案を出したが、町村官房長官、高村外相、石破防衛相は揃って『違憲である』との見解を述べた。
 ところが、ISAFへの自衛隊参加が違憲であるとの解釈が定着すると、日本の国際貢献の選択肢が狭まると外務官僚が根回しし、結局政府解釈は見直された。ここでも、自民党民主党案への有力な攻撃する材料を失った。

 根強い自民党シンパのみなさんは、自民党議員の切れ味のいい民主党批判を期待したいところであろうが、残念ながら批判する材料をどんどん放棄しているのである。