増税が先か歳出削減が先か?−増税先行論者は信用できないー

 マスコミの論調というのは、既に自由主義的改革の継続は支持していない。さりとて社民主義を支持している訳でもない。考え方としては財政再建至上主義の財務省の考え方に近い。マスコミの中でも朝日新聞などは、消費税を上げて半分は財政再建に半分は将来の社会保障にという財政再建社民主義の中間路線、読売や産経は財政再建により傾斜しているが、その差はあまりないと言っていい。
 新聞社の社説を書く論説委員というのは新聞社のエリートコースで与党や中央省庁担当のキャップというエリートコースを歩む。よって霞ヶ関の理論に染まりやすい。
 新聞ではないが、週間ダイヤモンド論説委員の辻広雅文のコラム『「消費税増税」で与党が総選挙に勝てる理由』霞ヶ関的メディアの論調をよく具現している。

年金と地方に回す2%が財政改善に使われ、1%が社会保障充実に充てられる、ということになる。落としどころとしても妥当ではないだろうか。
 ここまで与党が踏み込めたとすれば、対民主党戦略として意外な威力を発揮する可能性がある。
一方、民主党の掲げる公約の順番は、農家の戸別所得補償が典型なのだが、「スクラップ・アンド・ビルド」ならぬ「ビルド・ビルド・アンド・スクラップ」である。先に財政支出を約束してしまい、その財源は――はなはだ曖昧なのだから――歳出の無駄遣いを減らして捻出する、というのである。
 井堀利宏・東大教授の『「歳出の無駄」の研究』(日本経済新聞)は、無駄を減らせと呪文のように唱え続けることのむなしさを説明し尽くして興味深いが、民主党が無駄減らしに失敗すれば、財政は確実に悪化するのである。
 安心を求める有権者は、空手形ではなく、制度あるいは財源の裏づけを欲している。



 一般的には「税金の無駄遣いを徹底的に洗って、それでも足りない時に増税議論をすべきだ。」という意見が多く支持されているように思える。民主党は基本的にこの路線で支持を集め、政府も消費税増税に関するアクションを始める前に、無駄ゼロ会議をスタートさせて世論に追随している。
 ただマスコミの主流派は「無駄をなくせ」という世論を小馬鹿にしているところがあって、「まず増税」という立場を是とする。
 産経新聞論説副委員長の岩崎慶市氏のコラム 【岩崎慶市のけいざい独言】あまり無駄ゼロと言わない方が もマスコミ主流派の立場を端的に表している。

永遠にできない「無駄ゼロ」を強調していると、上げられる消費税も上げられなくなる。国民が約束が違うと怒り出すからだ。しかも、「無駄ゼロ」で微々たる財源を捻出している間に、財政の悪化は急速に進む。これを本末転倒という。



 与謝野大臣などと極めて近い意見で、基本的に削れる税金の無駄と、財政再建のための必要な財源はケタが違うので、「無駄をなくす」という議論は不毛だというものだ。ケタが違うというのは嘘ではないか、こうもはっきり言われると普通の人はムカつくと思う。
 私が「増税先行論」を批判したいのは、感情的な問題だけではない。ちょっと日経BP田中秀征氏のコラムを読んで頂きたい。


最近、ポピュリズム批判が多用されるのは、熱を帯びてきた「改革か増税か」という議論に際してだ。増税派が改革派を批判するときにしばしばポピュリズムに擬せられる。
一見、不人気な増税を主張する政治家や政党は正義感や使命感が強いように見える。「孫子の代に借金を残してよいのか」というのが殺し文句である。
しかし、ここにもからくりがある。世論が反対する増税をあえて主張することも、一部の政治家にとっては必ずしも不利ではないのだ。なぜなら、既得権益を擁護する側は、増税によって支持母体に対する歳出削減に歯止めをかけ、あわよくば歳出増も期待できるからである。



 もちろん私も、増税を主張している人の中には、歳出削減も同時に行うべきという主張する人も多く(そういう極端な財政再建至上主義がいいのかは議論の余地はあるが)、穿った見方をするのは失礼かも知れない。
 しかし、自民党政治というのは得てして異床同夢の勢力が野合するのが常である。消費税を増税したい財政再建至上主義者と、公共事業予算を再び拡大したいが故に消費税アップを狙う勢力が入口部分で結託し、成果の半分は財政再建に半分は公共事業にという形で分けるようなことを平気でする。今の自民党内でもっとも発言力があるのは、与謝野大臣を筆頭とする財政再建派でも中川元幹事長らに上げ潮派でもなく麻生幹事長を筆頭とする公共事業復活を目指す積極財政派である。
 私は田中秀征氏同様、増税先行論者を信用していない。もし彼らが国民の支持を得たいのであれば、異床同夢の公共事業復活派と絶対組まないことである。むしろ最初に歳出削減派と組むべきだ。歳出削減派とて、将来に渡って増税は許さないという強硬派はそれほどいないので、政策合意の可能性はある。結局、財政再建派は「増税先行論」の看板を下さない限りは支持を得られまい。