公共事業を正当化するロジック

 政治家はわざわざ予算を正当化するロジックを考えない。なにしろ田舎の選挙区では工事を持ってくるだけで評価されるのだから、例え、穴を掘って翌日埋め戻すような仕事でも構わない訳だ。よくわからない公共事業にいろいろな理由付けをして財務省などに削られないように理論武装するのは、専ら各省のキャリア官僚の仕事であった。
 小泉政権以降の公共事業削減の中で、論破されて削られてきたのも多いのだが、未だに「公共事業を正当化するためのロジック」をベタに信用している人も少なくない。

子ども手当」より保育所を作れという世論の怪

 子ども手当に疑問を投げるもっともらしい世論として流布しているのが、「子ども手当」より待機児童の解消を優先すべきで、そのために保育所を作れという意見だ。もっともらしい意見だが、少子化で多くの幼稚園が廃園に追い込まれ、一方で保育園が不足しているというミスマッチが生じているだけだ。
 もちろん保育所が絶対的に不足している地域もあるし、特に不足が叫ばれている乳児保育に対応するには、幼稚園をそのまま転用という訳にもいかず、多少の設備投資は必要だ。しかし行政が新たに土地を手当して保育園建設に多くの予算を投入すべきという意見はクレバーではない。
 世論受けがいいネタを利用して、少しでも地元の建築業者の仕事を増やしたいという地方自治体や政治家の思惑が見え隠れする。

今まで放置されてきた「学校の耐震化」が最近急浮上してきた怪

 自民党の先生も読売新聞と同様の批判をしているが、なぜ今まで耐震化を進めてこなかったのかという総括が先ではないか?学校耐震化は平成19年12月に政府がとりまとめた「生活安心プロジェクト」でようやく溯上に上がり、平成20年度からようやく予算が付き始めた、自民党政権末期のようやく手をつけはじめたというのが実情だ。
 耐震については阪神大震災以降関心が高まったものの、阪神大震災ではたまたま倒壊した学校が少なかったせいか、この時は学校の耐震化を急ぐべきという議論は盛り上がらず、15年も経ってからなぜか騒ぎ出している始末である。
 これも土建自治行政が、より美味しい絶対額の大きい道路建設などの公共事業の予算確保に目を奪われ、目もくれなかったと結末だ。国土交通省の予算が厳しくなったことと、麻生政権がより批判を浴びにくい公共事業を選んだ結果急に浮上してきたのが学校耐震化の話だ。
 もちろん耐震化は進めるべきであろうが。今までやってこなかったツケを放置して、民主党政権に対し民主党マニフェストより前政権のツケの処理を優先しろというのは皮肉である。建築関係者にとっても、ただでさえ、公共事業を減らそうとする民主党政権にあって、学校耐震化は死守したい予算であるのは間違いないが、少なくとも自民党議員にそういう主張をする資格はない。
 学校耐震化は進めるべきだが、「子どもたちを殺す気か」というような感情的な議論は無意味である。他にも何10年、何100年に一度の災害に対する備えができていない部分はたくさんある。冷静に安心社会実現のための優先順位を議論すべきであろう。
 

農業大規模化と土地改良

 土地改良事業は、戦後の食糧増産、高度経済成長期は農業の機械化への対応、直近では農業の大規模化を主目的に行われている。ところが、日本の農業経営を大規模化すべきというお題目を掲げながら、大規模化を目指す農家に対しても減反政策への参加が義務付けられ、むしろ規模が縮小するという矛盾が放置された。また都市近郊の平野部の農地は、商業用地などへの転用に好都合で、農地改良された後、わずか10数年で農業以外の用途に転用された農地も少なくない。
 日本人は平野部に街ができて、山奥で農業をやるものだと思っているが、本気で日本の農業を効率化したいのであれば、平野部こそ農地として利用し、農地にしにくい台地や谷間地を住宅地にするといった大胆な土地利用計画を考えなくてはならない。
 最近は、土地改良事業というものが一人歩きし、その理由付けとして農業の大規模化が使われている傾向が強いのではないか?実施に就農者より土建関係の就労者の方が多いという地方も多く、農家のための施策より、土建業者のための施策が優先されることも珍しくない。
農家の戸別補償は小規模農家を残すだけでダメ、その予算で農業大規模化のための事業を推進すべきとの意見も聞く。確かに鳩山政権が土地改良事業の予算を半減させるというのは、かなり乱暴だ。ただ今までの農業土木で、農家の生産性がホントに向上してきたのか?本来農業活性化のために使うべき農業予算が、地場の土建業の雇用を維持するための公共事業費として認識されていなかったのか?そういった総括なしには、流れに対抗することはできないであろう。

公共事業は国土交通省だけの問題ではない。

以上共通するのは、国土交通省以外の予算であること。国土交通省所管の公共事業費がシーリングで削られ、地場の土建業者に飯を食わすために、他の官庁の予算を使ってなんとか飯を食わしてやろうと、政治家や役人がいろいろ知恵を絞っているのである。
 優秀なお役人の作った大義名分は、非常に見事なので、我々はベタに受け入れてしまうのだ。