なぜ日本では欧州のように極右勢力の支持が拡大しないのか。

 日本で極右勢力の支持が伸びないのは、その主張と生活が結び付かないからである。つまり左派勢力の支持が伸びないのと同じ。左派が平和や護憲といったところで、それで我々の生活はどうよくなるの?ということで支持を伸ばせないのと同様だ。
 欧州で極右の支持が拡大しているのは、移民の存在が大きい。労働者にとって安い賃金で働く移民は脅威であり、その排斥を訴えることでナショナリズムと生活が符合するからである。労働者階級が、リベラルで移民受け入れに寛容な左派に愛想を尽かし右傾化しているのである。極右政党も、貧困層を明確なオルグのターゲットとし、経済政策では貧困層の受けのいい社民主義的な政策を取り入れている。
 ところが日本の右派には冷戦構造を引きずっている人が多く、弱者に厳しいのが保守だ。社会主義的な政策は許せないという空気がまだまだ強い。確かに55年体制というのは社会主義に対抗するために、伝統的価値を守りたいという右派勢力と、資本主義を守りたいという勢力が握手してできたのだ。つまり伝統を守りたい右派勢力は資本主義を尊重し、資本主義者は日本の伝統を尊重するというお付き合いの関係であった。ところが冷戦が崩壊し、社会主義の脅威がなくなると、資本主義勢力は伝統的価値観を省みずに、剥き出しの利益追求に走るようになった・ホリエモン村上ファンド55年体制の握手を止めた資本主義者の類型と言える。
 ところが右派勢力はとってもお人よりで、資本主義者たちが平気で伝統的価値観を蔑ろにしているにもかかわらず、律儀にも弱者に甘い政策は悪だとか、競争を促せといった資本主義的な価値観へのお付き合いを止めようとしない。欧州のように貧困層をターゲットにして極右が弱者の受け皿になれば、もっと右派勢力の支持は拡大できたはずなのに、そのチャンスをみすみす逃したのである。
それでも、日本で90年代後半以降、プアな若者が右傾化したのは、自分のやるせない心境のはけ口を、嫌韓や嫌中に求めたからだ。ただそれは一時の気晴らしに過ぎず、右派を支持したところで自分の生活がよくなることはないと悟った人も多く、支持を固定化できたとは言い難い。
この停滞状態を打破するには、一旦政治が極端にリベラルな方向に振れた方がいいのではないか。例えば、日本の人口の20%くらいが外国人になれば、極右勢力の支持は大きく拡大し、政治的なインパクトも大きくなるだろう。極右はリベラルな政治状況で支持が拡大し、左派は保守的な政治状況で支持が拡大するのがセオリーだ。自らの支持拡大のためには、真逆な政治体制が構築されるのことは実は望ましいのだ。
もちろんみすみすそれを望む右派などいないであろう。ただ運動を通じて敵が強い時ほど運動が盛り上がることを彼らは知っているはずだ。そのために組織率を大幅に低下させ、さして影響力もなくなった日教組を、まるで今でも日本の教育を支配しているか如く過剰に敵の存在を喧伝するのである。だが、弱い敵を強いかの如く喧伝するより、本当に敵が強い方がもっと運動は盛り上がるのだ。
折しも政権交代により民主党政権が誕生したが、この政権は極右勢力が考えているほどリベラルな政権ではない。彼らは敵の脅威を喧伝して自らの運動を盛り上げるために、民主党の左派性を強調しているのであるが、実態とはだいぶ違う。また民主党労働組合を支持母体にしているので、外国人労働者受け入れにはあまり積極的ではない
むしろ外国人労働者を積極的に受け入れる政権が誕生した方が極右政党への支持は高まる。欧州の政治状況を見ると、安い労働力を確保したいという自国の産業界の意向を受け、また国際競争力を保ちたいという狙いから、保守政党によって外国人労働者を積極的に受け入れる政策を行った国が多い。左派政党は労働者の利益より寛容主義を重視してそれを追認しているケースがほとんどだ。日本で極右政党の支持を拡大させるとしたら、自民党中川秀直河野太郎みんなの党山内康一といった新自由主義的でかつリベラルな勢力が政権を握った時だと思う。