人手不足:バブル期並みの水準 労働経済動向調査

 企業に従業員の不足感が広まり、バブル期並みの水準にあることが1日、厚生労働省が11月に実施した労働経済動向調査で分かった。だが、雇い入れは進んでおらず、「人手は欲しいが人材が集まらない」といったミスマッチが雇用環境改善の足かせになっている。

 調査は従業員30人以上の民間企業5408社を対象に年4回(2、5、8、11月)実施し、今回の有効回答率は56.3%。常用労働者が不足と答えたのは全体の28%、過剰は8%で、20ポイントの不足超過だった。20ポイントに達したのは92年8月(24ポイント)以来。不足超過が目立ったのは運輸業(40ポイント)、情報通信業(37ポイント)、金融・保険業(32ポイント)。

 パート労働者が不足と答えたのは24%、過剰3%で、92年5月と同水準となる21ポイントの不足超過だった。パートでは特に飲食・宿泊業(51ポイント)が際立った。

 一方、第2四半期(4〜6月)に比べ、第3四半期(7〜9月)の常用雇用者が増加と答えた企業の割合から減少と答えた企業の割合を差し引いた「常用雇用判断DI」は製造業マイナス1ポイント、卸売・小売業マイナス8ポイント。「パート雇用判断DI」はいずれもマイナス2ポイントで、「人手不足ながら望ましい人材が見つからないケースが多い」と厚労省はみている。【大石雅康】

毎日新聞 2005年12月1日

雇用改善が格差是正に結びつかない社会構造。

バブルの崩壊が、日本を格差社会としたのであるが、雇用環境がバブル期に近づけば格差解消社会に戻るのかと言うと、その可能性はほとんどない。
 製造業は厳しい国際競争に晒され、人手不足と言いながらも人件費を上げられない。サービス業も国内で厳しい価格競争に晒されていて、人件費アップ分を価格に転嫁できない。それでも人材を確保するために、一律の定期昇給は行わず、辞めてもらっては困る人材、欲しい人材のみ待遇を改善するのである。これまでは経営者やエリートビジネスマンとその他という格差だけだったのが、一般労働者内に更に格差を生む土壌が生まれるのである。そして選ばれなかったものは労働経済の動向に関係なく、今後も負け組であり続けるであろう。
 ただある会社で必要でないとされた人間も、他の会社や業界に行けば必要な人材の可能性はある。このような層が奮起して適職を見つけられれば、いわゆる負け組の数を減らずことは可能かも知れない。

労働集約産業のジレンマ

 人手不足が深刻な業種の中で、運輸業や飲食、宿泊業はどうなるのか。これらの業種は典型的な労働集約産業であって、労働者の質以前に数の確保が不可欠な業種である。先ほど挙げた選別的待遇で人材を確保するスキームは成り立ちにくい。しかも価格競争は他の業種以上に熾烈であり、人件費アップしても価格に転嫁できず収益を圧迫するであろう、運輸業はすでに燃料費のアップを価格に転嫁できず苦しんでいるので深刻だ。
 過去の例から推測すると、価格が遅れて漸増するので、それまで体力を消耗させながら待つしかない。更に急激に自体が進行した場合。人手不足倒産→残存企業による寡占→値上げ というシナリオも予想できる。

単純労働者の人件費がアップすると

 労働集約産業に従事する単純労働者の賃金が上昇すると、それは格差社会是正という面では歓迎すべき面もあるが、実は様々な影響が起きる。

  1. 物流コストアップによる企業のコスト増。
  2. 一部ホワイトカラー(営業職など)の労働集約産業への移行。

 別にタクシー会社が多く潰れて、タクシー料金が上がっても社会への影響はそれ程ないのだが、トラック業界は影響が大きい。原材料輸送や製品の工場から都市への移動は鉄道や船など、人件費の影響の少ない輸送手段へ移行すれば若干は回避できるが、末端の小売店舗等トラック以外では輸送不可能なので他産業への影響は免れない。
 2はノルマの厳しい営業職などに身を置いている人間が、労働集約産業の待遇改善が起こると「気ままさ」に惹かれて異動する現象である。営業職の現象は企業の営業力に直結し深刻である。営業職の待遇を改善させればいいが、優秀な人材が営業職から労働集約産業に流れるのは経済的、国富の面から考えてもマイナスである。