なぜ人々は「少年による凶悪犯罪が増えている」という間違った情報を鵜呑みにしているのか?

 結論から言うと、日本における少年による凶悪犯罪は戦後劇的に減少している。これは事実なのでこれ以上説明しない。疑問がある人は自分で調べて欲しい。

 12/16(金)のテレビ東京WBSで少年犯罪は減少しているというデータを取りあげた。実はマスコミがデータに基づいた客観報道をするのは稀で、多くのマスコミは特異な少年犯罪を断片的に報道し、人々に凶悪な少年犯罪がいかにも増えている印象を与えることに余念がない。
 番組で50代の中年男性が、「最近少年の凶悪犯罪が増えている。昔は悪い子はそんなにいなかった。」みたいなコメントを発するのは実に滑稽であった。中にはキャスターやコメンテーター自身が事実を知らず、悪意なくまるで「少年による凶悪犯罪が増えています」みたいな発言をする。有識者と呼ばれる人の不勉強さにはいささか呆れ果てる。

なぜマスコミは嘘を伝えるのか?

 実はマスコミに嘘を伝える意図はそれ程ない。一部に保守派が国民の道徳回復機運を高めるために不安情報で煽っているとか、漫画がゲームを規制しようとする勢力が暴力犯罪をこれらのせいにするために情報操作している等の意見もあるようだが、それもいささか偏った意見だ。
 むしろ以下のようなマスコミの特性からそういう情報しか流せなかったのが現実であろう。

  • マスコミの問題提起ミッション
    マスコミはネガティブな問題を提起し、それを改善するよう訴えることをミッションとする。ポジティブな問題はあまり取り上げない。昭和40年代前半にどのような報道が行われたか私は知らないが、恐らく少年犯罪が急激に減っているという報道は為されなかっただろう。
  • マスコミの速報重視
    今起きている事件の報道を優先し、構造的な問題な長期的なビジョンに関してデータに基づく客観的分析をマスコミ自身がほとんどやらない。むしろアカデミズムの仕事であるかも知れないが、閉鎖的なアカデミズムから国民へのアウトプットが為されない。

なぜ少年による凶悪犯罪が減ったのか。

 ここではマスコミが過去40年間ほとんど伝えてこなかった、なぜ日本で少年犯罪がここまで減ったかについて考えてみたい。

 上記のグラフは「ユニバーサル曲線」と呼ばれるものであるが、かつての日本は10代後半から20代の犯罪発生率が飛びぬけて高いのが判る。実は先進国を含めて外国ではまだこの傾向が残っているのであるが、日本だけ極端にフラットなグラフに移行している。日本は世界に類を見ない「少年が人を殺さない国」なのだ。
 減った理由としてよく挙げられるのが、雇用の安定と高学歴化である。つまり少年たちが、「力とプライドが支配する少年の世界」から離脱し、まじめに勉強しまじめに働くことを是とする世界に抱き込むことによって「少年性」を去勢されるのである。そもそも少年というのは動物であり、雌を襲って奪い守る本能を秘めている。日本の戦後教育は少年の非動物化に成功し、凶悪犯罪を減退させた。

私のエントリーを無意味と思われる方へ

 確かに少年による凶悪犯罪が連日報道される現実の下、私がいくらデータを持ち出して少年による凶悪犯罪が減っているといっても仕方ないかもしれない。私もネタとしては面白くないと思っている。データを捏造してでも少年による凶悪犯罪が増えていると書きたてた方が面白いに決まっている。
 しかし、過去40年少年による凶悪犯罪を劇的に減らしていった日本の現実を無視していいのであろうか?実は私も少年による凶悪犯罪は今は増えていないと言っているだけで、将来増える可能性の方が高いと思っている。本当に増えて言ったときに、過去に劇的に少年による凶悪犯罪を減らしていったメカニズムをどう理解するか重要になってくるのである。