どうすれば総理の靖国公式参拝が実現するか考えてみる

春の例大祭の問題はほどほどの処で収束をはかるべき

安倍総理が参拝を見送り、閣僚クラスが数名参拝するならば問題にならないという読みであった。秋の例祭には野田政権の羽田大臣と下地大臣が参拝しているが、中韓はこれを問題視していない。ところが今回元総理大臣である麻生副総裁、財務相の参拝が刺激したようだ。
 韓国の場合、国内世論の反発が予想外に強かったので、韓国政府が世論から弱腰批判の謗りを受けないように反応した感が強い。最初から春の例大祭で閣僚が参拝したら靖国カードを切ろうと準備していた感じはしない。
 李明博前大統領の竹島上陸はまさに「脅し」であったが、今回の件を安倍総理が「脅し」と批判するのは少し違う気がする。今まで持論を封印して我慢してきた感情を抑えきれず「脅し」というインパクトのある言葉を使ったのだろうが、今回は事前に勝つためのシナリオが準備できている訳でもなく、勝負に出る時ではない。国内世論を味方につかることはできても、北朝鮮問題で日中韓の調整役となって忙殺しているアメリカの心象を悪くしてしまうリスクが懸念され、ほどほどの処で収束を考えた方がいい。

靖国中韓側の外交カードになってしまっている

 今回は韓国が準備周到に外交カードを切ろうと狙っていたとは思わないが、靖国問題中韓側の外交カードになってしまっているのが現実だ。
 日米は同盟関係であるが、敗戦国と戦勝国という関係でもある。日本国内の敗戦前の体制を美化したり、東京裁判を否定するような言説をアメリカが好まないことを中韓は熟知しており、靖国参拝A級戦犯の関係をことさら強調して、靖国参拝に関するアメリカの理解が進めないことに成功している。
 「日本側も祖国のために戦って命を落とした英霊を弔うのは当然」という自然な感情論で説明したいところであるが、実際には戦前の体制を否定したくない人、東京裁判を否定したい人が政治家の中にも多く、靖国参拝A級戦犯の関係をことさらに強調する中韓の戦略を日本側が打ち返すのが難しい状況である
 まさに今アメリカが面倒な北朝鮮問題で忙殺している時である。このタイミングで靖国問題が起きると、靖国神社に理解的ではないアメリカは、日本がトラブルメイクしたとの印象を持ち、日本の立場が悪くなるリスクは念頭に置かないといけない。

靖国神社参拝は日本の国益なのか?

 靖国外交カードとして取られている状況では、靖国参拝国益にはなっていないのだが、その話は置いておくにしても、靖国参拝はそもそも「国益」なのであろうか?靖国参拝官房長官も言っている通り「心の問題」であり、私もその通りだと思う。「心の問題」に対して「益」という言葉を使うのが正しいのか?資源問題も絡み「益」という言葉を使うにふさわしい領土問題とは明らかに違うのに、我々は安易に「国益」という言葉を無神経に使いすぎてはいないか?
 靖国参拝国益に非ず、むしろ国民満足と言うべきではないか?もちろん日本国民でも靖国神社の存在を快く思わない人もいるので国民満足ではないという反論もあろうし、更にそれに対し靖国神社を批判する人は日本人ではないという批判もあろうが、そういう議論は個人的にあまり重視していないので割愛する。

安倍内閣の高支持率はアメリカにメリット大。決して潰しはしない。

 現状極東アジアはリーダー不在で、アメリカが今でも調整役を担っている。各国がバラバラで好き勝手なことをして、アメリカの手を煩わしている状況にアメリカも辟易している。
もちろん最大のトラブルメーカーは北朝鮮であるが、大統領が人気取りのために竹島に上陸する韓国の動きもアメリカにはトラブルメーカーと映った。
 その中で、沖縄の基地問題アメリカに反抗的な態度を取った鳩山政権を除けば日本は優等生であるが、今唯一の懸念材料があるとすれば安倍総理が「TOO MUCH CONSAVATIVE」であることである。日本が極東アジアのリーダー役を担うには力量不足で、アメリカが仕方なく面倒な仕事をしなければならない状態において、安倍総理には下手に中韓を刺激して欲しくはない。基本的に日中韓でいがみ合いをされるのはアメリカにとって迷惑なのだ。
 それでも安倍総理の存在はアメリカにとってメリットが多い。安倍総理の高い支持率のお陰で、自民党の伝統的な支持基盤である農業団体に遠慮せずにTPP参加を表明することができた。今後は基地問題においても高い支持率を背景に強いリーダーシップを発揮することが期待できる。安全保障面では、財政削減を余儀なくされているアメリカにとって、憲法改正と防衛費予算の増強により、極東アジアにおける米軍の役割の一部を日本に担ってもらうという戦略も描ける。
 世の中には完璧な人間はいない。アメリカは安倍政権が中韓を刺激するような行動に走らないよう予防線を張りながら、今後も安倍政権を上手く利用しようと考えているだろう。8/15に関しても今回の件で予防線を張ってくると思われ、安倍総理靖国参拝は相当難しくなったと思う。

どうすれば総理大臣が普通に靖国参拝できるようになるのか。

 では安倍総理はこのまま靖国神社に参拝できずに終わるのか。できる可能性はある。以下の条件が揃った時だ。まあ小泉総理の時と同じと考えればいい。

  • アメリカや日本の経済界が安倍政権の業績に満足し、少しぐらいはやりたいことをやらせてあげようという空気になる。-
  • 任期末期で、次の内閣での中韓との関係改善が見通せる。

それでは毎年総理大臣が毎年普通に靖国神社に参拝できる話ではない。毎年総理大臣が普通に参拝できるようになる方法はないのか?可能性は二つあると思う。
1.A級戦犯分祀する。
2.日米安保体制から自主防衛+アメリカとの集団的自衛体制への移行
 1に関して、分祀しても中韓は文句を言うから意味がないという意見がある。確かにその可能性は高いが、少なくともアメリカからは東京裁判の否定といった懸念は払拭され、普通の「心の問題」として理解されやすくなる。仮に分祀後に中韓が騒いでもアメリカは日本をトラブルメーカーとは考えなくなり、むしろしつこく騒いでいる中韓をトラブルメーカーと考えるようになるだろう。
 ただし、これは日本国内の事情で難しい。靖国神社を熱心に奉賛している人にはA級戦犯は無実であると考えている人が多い。また特にA級戦犯の問題に関心がなく、普通に祖国のために戦って亡くなった英霊を弔いたいと考えている人も、熱心に奉賛している人たちとの対立は避けたいと思っている。1の方法は総理の参拝更には天皇陛下の参拝に繋げる確実な方法ではあるが、そういった事情から分祀のために汗をかく人が出てくるとは考え難い。
 2はアメリカも防衛予算の削減を迫られており、極東アジアアメリカが担ってきた役割を自衛隊改め日本軍が担うことに対してアメリカも吝かでない。その時には韓国からも米軍が撤退するであろう。
 そうなると、外交面でもアメリカは極東アジアの調整役から外れ。極東アジア内の問題は極東アジア内で解決することになり、日本はアメリカに気兼ねすることはなくなる。日中関係、日韓関係が悪化しても、それを修復するもしないも日本の意思となる。
 ただ日韓、日中が対立した状況で日本の国益を守れるのかは相当穿ってみた方がいい。世論は「中国も韓国も敵だ」と夜郎自大に無責任なことを言えるが、為政者は外交に対して結果責任が問われる。日本が外圧でなく自国の意思として隣国との友好関係構築を優先しなければならない場面も想定される。これとて靖国参拝を確実にする選択肢ではないことは踏まえておく必要がある。

眉唾モノの「学校週6日制期待」


 政治家も嘘を付くが、国民もよく嘘を付く。この世論調査もかなり嘘をついている人が多いと疑った方がいい。学力向上なんてのはお題目で、ホンネは子どもの学校滞在時間を増やして親がラクをしたいのではないか?
 まず学校の完全週休二日制の導入により、夏休みや短縮授業が縮小したり、学校行事が縮小され、授業時間はそれほど減っていない。また教育熱心な親は小学4年生くらいから子どもを塾に行かせる。中学受験では塾での勉強だけが勝負で、学校で習う授業はほとんど役に立たない。学校に行く時間が増えることは受験にはマイナスであり、教育熱心な親はむしろ土曜授業などには反対のはずだ。
 本気で学校の授業に期待しているのは、塾のあまりない地方の教育熱心な親であろうか。そのような人が50%以上いるとも思えない。
 仮に親が楽をしたいというのがホンネであったとして、それはそれで解らなくはない。昔は土曜の午前中は夫婦だけで時間を過ごせる貴重な時間で、新婚時代のように夫婦二人で土曜日の午前中を過ごす人も少なくなかった。その時間が学校の完全週休二日制で奪われたという不満はよく聞く。
 ただその不満を解消するために多額の教育予算の増額が必要となる土曜授業を復活させるというバカな話はない。親もバカな話が通じる訳ないことぐらい理解しているので、「学力向上」など都合のいいお題目を利用しているだけではないか。
 マスコミは政治家も嘘を見抜き伝えることも重要であるが、国民の嘘も見抜く度量が必要でないか。今回は、何か現状を変えたということで成果をアピールしたい政治家と、ラクをしたい親との共犯関係が存在し、より一層マスコミの見抜く力が試される。しかしながら読売新聞はいつも、成果をアピールしたい政治家の提灯持ちをやってしまう訳で、その役割は全く期待できない。今回のアンケートも提灯に火をつける目的なのかも知れない。

猪瀬都知事の交通政策は過大評価され過ぎではないか?

私は猪瀬都知事に恨みはなく、やっていることを周囲が過大評価し過ぎるのがおかしいのであって、やってはならないことをやっている訳でもなく、批判する気もない。ただ周囲が過大評価する余り、周囲が意見しずらくなり、結果的に成果を得にくくなってはいないだろうか?

効果に乏しい九段下駅の壁撤去

 結論から言うと、やって悪くないがそんなに過剰評価できる代物ではない。
 半蔵門線の東行きと都営新宿線西行きの同一ホーム乗換が可能になったが、そもそも半蔵門線の東行きから都営新宿線西行きに乗り継ぐ人がいるか考えて欲しい。

 このようにメリットを享受できるパターンは限りなく少ない。まあバカの壁がなくなってホームが広くなったのは確かなのでその点は評価していいが、乗り換えが便利になった云々は明らかな過大評価で、現実を見ていない人が適当なことを言っているとしか思えない。

東京メトロとの経営統合に拘りすぎ

  確かに東京に東京メトロ都営地下鉄の2事業者が並存し、両者を乗り継ぐ場合運賃が割高になる弊害は計り知れない。しかしその弊害を除去する方法は経営統合しかないのか?この点についてマスコミも余りにも無知で、経営統合が是という話に安易に乗りすぎている。
 世界には複数の事業者が地下鉄を運営している都市は多数ある。代表的なのはフランスのパリ。ドイツのベルリン、ハンブルク、フランクフルト、ミュンヘン。アジアでは韓国のソウルがそうだ。複数の事業者が地下鉄を運営している東京は異例という猪瀬都知事の認識は誤りで、猪瀬都知事の誤った認識を検証せずそのまま垂れ流すマスコミも多い。ただこれらの都市は事業者が異なっていても同じ運賃制度が採用されていて、旅行者は複数事業者が存在することに気づかずに利用しているケースも多い。
 東京でも、東京メトロ都営地下鉄を存続させたまま運賃制度を統一することは可能である。運賃制度が統一されれば利用者の不満はほとんどなくなるだろう。確かに経営統合まで踏み込むことで、資材調達のボリュームが増えて調達メリットが生じたり、間接人員を減らせるメリットはあるが、猪瀬都知事自身の狙いが「利用者の利便性」なのか「統合によるコストダイン」なのかよくわからないまま「経営統合ありき」で前のめりになっていやしないか? いたずらにハードルを上げて、できる施策もできなくなるだけである。

東京メトロ都営地下鉄の運賃統合は可能か?

 仮に都営地下鉄東京メトロと同じ運賃制度を導入した場合、大幅な減収になるという問題に直面する。運賃統合による乗客増も想定できるが、増客増で減収をカバーするのは難しいだろう。JRの運賃制度を参考に、都営線の新橋〜西馬込、春日〜西高島平、日比谷〜三田、住吉〜本八幡中野坂上〜光が丘には東京メトロの2割増程度の通算距離を採用してはどうか。そうすれば都営だけ利用していた乗客の運賃は今までとあまり換わらず、都営とメトロを乗り継いでいた乗客に値下げを集中でき、減収はある程度圧縮できるのではないか。

都営バス24時間運転。渋谷〜六本木では確実に失敗する。

 この区間で24時間運転して誰が利用するのか、よく考えて欲しい。まず深夜帰宅する人が使うだろうか?渋谷〜六本木間に居住している人は相当な富裕層であり、帰宅が深夜になる場合でもタクシーを利用するであろう。また深夜時間帯は他の交通機関が動いていない中、渋谷〜六本木間だけバスが走っていても、この沿線に住んでいる人以外利用価値は低い。
六本木と渋谷は共に繁華街なので深夜に遊ぶ人達の回遊性も想定できるが、2〜3人集まればタクシーで移動するだろう。深夜バスの運賃は400円である。深夜に一人で飲み歩く人がそういるとも思えない
バスの終夜運転を実施している都市は多い。ロンドンやパリは地下鉄の終夜運転を行わない代わりにバスを終夜運転させている。両都市とも特徴的なのは、通常時間帯はバス路線が地下鉄を補完するように、地下鉄と重複しないよう設定されている一方、深夜は地下鉄の路線と重複するような路線を運行している点である。
もし東京で終夜バスを運転するならば、銀座線や丸の内線と並行する路線であろう。青山通りは深夜賑わいに乏しいので、六本木通りを経由させるのもいいが、少なくとも、渋谷〜六本木〜新橋〜銀座〜日本橋〜上野くらいの路線延長がないとタクシーでなくバスを選ぶインセンティブが働かないと思う。都心部に住宅が少ないという東京の特徴を考えると、銀座〜新橋〜六本木〜渋谷〜二子玉川、或いは渋谷〜六本木〜新橋〜銀座〜勝鬨豊洲といった路線の方がいいかも知れない。

安倍政権過剰防衛論が台頭するリスク

安倍政権の支持率が上昇し、次の参院選は間違いなく自民党が圧勝する。
しかし、そういう見通しが明らかになることはいいことばかりではない。これまで「参院選までは安全運転」という方針に理解を示してきた支持者が、その方針を「過剰防衛」と考えるようになる可能性があるからだ。

まず可能性が高いのはTPP参加の問題。彼に自民党が公約を破ってTPP参加を表明しても、TPP反対派には受け皿がない。自民党のTPP反対派は生活の党の失敗を目の当たりにしているので、仮に党内闘争に敗れても離党しないだろうし、今さら社共や生活の党を支持する有権者もいないので、参院選自民党が負ける可能性はほとんどない。
よって安倍政権に対する圧力は日増しに強まるだろう。

保守系の安倍支持者も、安倍カラーの封印に対していつまでも理解し続けるとも思えない。「参院選までは安全運転」に理解していた人たちも、参院選での自民党の勝利が揺ぎないものと感じれば、もっと早く安全運転の解除を求めてくるだろう。

雇用なき(賃上げなき)景気拡大でも、景気が回復しないよりマシと思って諦めるしかないのか

今度の総選挙の結果を以って、民主党のデマンド型政策は効果がないと断罪され、再びサプライサイドの景気刺激策に軍配が上がるであろう。
 実際にはサプライサイドのトリクルダウン理論など誰も信用していない。いざなき超え景気で、雇用も賃金も増えなかった日本国民はサプライサイド理論に反感すら抱き、国民への直接給付などのデマンド型の政策に魅力を感じ、3年前に民主党を選んだのである。
 デマンド型が効果がないと断罪されることに納得いかない有権者も多いかも知れないが、納得していない人が子ども手当を貯金せずに消費に回したかと言うとそれは疑わしい。残念ながらサプライサイドの方が100%お金を市場に回せるのに対し、デマンド型は一定額貯蓄に回わってしまう。
 我が家でも、妻にさんざん「子ども手当は貯金するな!貯金したら子ども手当は効果がないから廃止という結論になるぞ!」と説いたが、まったく理解してもらえず、国からもらったお金は貯金されたままである。
 安倍自民党の国土強靭といった政策がどこまで効果があるかはわからない。仮に効果があって景気が回復しても、今度もまた雇用なき(賃上げなき)景気拡大になる可能性は高い。自民党政権が今度はいつまで続くか保証はなく、仮に続いても小泉政権のように擬似政権交代で政策がガラッと変わってしまうリスクもある。建設業もうかつに雇用を増やせない。ましてや景気拡大が建設業以外の業種に拡大しても、企業は賃金抑制の手を緩めないだろう。
 ただ企業収益は少しはよくなる。それで税収が上がれば、財政再建のための増税を少しは遅らせることができるかも知れない。
 我々の生活が豊かになることはもはやない。サプライサイドの政策で生活は豊かにするクスリではないが、もしかしたら悪化を止めてくれるかも知れないのでとりあえず選ぶ。そう割り切って安倍政権時代を過ごすのが精神衛生上よろしいのではないか。

「中道」は左右とは別の一つの極である。

Facebook民主党の仙谷副代表と自民党の安倍総裁が公開討論をやるらしい。今まであまり取り上げられたことがないテーマだし、私もウヨサヨ論ばかりやっていて、あまり中道とは何か真剣に考えたこともないので、少し考えてみたい。
 私は中道はどっちちかずの曖昧な選択肢だと考えていたが、それは少し違うことに気付いた。それは「中道は左右という極とは別次元の一つの極である」という点だ。下のグラフにすると解りやすいが、政治を一次元的に捉えると、左右の極しか存在しないが、二次元的に捉えると「中道」は一つの極になる。

 右翼と左翼は似ているということに気付いている人は多いと思う。例えばヒトラースターリンのやったことは似ている。つまり極右も極左も反人権、反自由、多様な価値観に不寛容なのだ。ではもっとも人権を重視し、自由を重視し、多様な価値観に寛容なのはとなると、「中道」という一つの極が見えてくる。実際には中道左派から中道右派までのカテゴリーがその極に存在する
 この極が日本で見えにくいのは、自由主義陣営で右側のウェイトが大きく、更に冷戦終焉で左派が弱体化して、バランス的に中道が左に見えるからだろう。それはアメリカも同様で、極左が存在しない国では左側半分を無視できるので、二次元的に捉える必要がない。
 アメリカでは「人権」が国是なので、保守派が人権問題で中国を批判するなど、人権という価値観が絶対視されるのに対し、日本では人権という価値観を敵視したり、自由という価値観を批判する「右側」の奥が広いことも問題をわかりにくくしている。戦後アメリカ占領下で完成した憲法や教育システムまで「左」というポジショニングで考える人がいるので厄介だ。
 例えば、戦後民主主義教育というのは典型的な中道右派の思想である。これが日教組と絡めて語るのはまったくお門違い。日教組的なものはむしろ「滝山コミューン」の世界で、左側の全体主義の世界というのが別に存在するのである。仮に戦後民主主義教育を推進してきたのは自民党政権と文部省であり、それを支持しているとしたら日教組の右派である。

日本ではまだ左半分も無視できない

 「滝山コミューン」のような世界はもはや存在しないが、実際はまだ左半分は無視できない。例えば脱原発運動を見ても、運動の中心になる人たちが「原発即停止で脱原発でない」と言うスタンスで、本来は連帯できるはずの「即停止に拘れないが、脱原発を目指す」とう考えの人たちを「お前らは推進派と一緒だ!」と罵倒してしまうので、多数派を構築できずにいる。極端な例では、福島の疎開運動のように、住民の自由を制限して強制疎開させようという運動もある。原発事故をきっかけに、日本は左側半分の現象がまだまだ見られると痛感した。

極端な主張がもてはやされる時代に「中道」は埋没するしかないのか。

 かつて小選挙区制度下に置いては、政党は中道化すると言われてきた。それについては数学的にも証明されてきたのだが、ここ数年は逆の現象が起きている。極端な主張が支持され、二大政党の主張が乖離する現象だ。これについては、ネットの影響云々言われているが、まだきちんと現象を分析して論じられたものは少ない。
 ただ極端な主張がもてはやされるから中道は支持されなくなるという結論にはならないと思う。中道を一つの「極」という認識をせず、ただ中道を叫んでいたら今の時代埋没するだろうが、「極」であることを積極的にアピールすれば活路はある。例えばアメリカのオバマ大統領はセクシャルマイノリティーの権利を拡大する大胆な政策に打って出た。これは中道が最も多様な価値観に対して寛大であることを積極化したものと言えよう。
 話を公開討論会に戻すが、自民党の安倍総裁は「中道は大衆迎合の醜い姿」と発言しているが、これは決して間違った発言ではない。中道の悪い面が出ればそうなるからだ。実際に民主党がどこまで「中道」というものに積極的価値観を見出しているか疑問である。例えば、民主党政権脱原発を目指しながら大飯原発の再稼動を決めたが、異口同音に矛盾しているとの批判を浴び(原発推進派からも含めて)、適切な反論もできずにいる。恐らくあまり考えずに利害調整だけをした結果だからだろう。
 果たして公開討論会で「中道」というものを評価したくなるような意見が出るであろうか。今のところ期待はずれに終わるような気がしてならないのだが。

民主党は国民との約束を守らなかったが、自民党は国民との約束を守れるのか?

民主党はなぜマニフェストの多くを実現できずに反故にしたのか?

 民主党マニフェストの多くを実現できずに反故にしたのは以下の理由が考えられる。
1.甘い見通しのまま、できる可能性が低い約束をしてした。
2.党内に公約に納得していない議員がいて、後から修正するチャンスをうかがっている。
3.マスコミや圧力団体が「公党の国民への約束」を重要視せず、公約を変更するよう圧力をかけた。
 マスコミ報道や民主党の自己反省では1の理由が強調されるが、これだけを強調するのは余り意味がない。
 まず野田総理以下、今の民主党執行部がどこまでマニフェストを是としているかまず疑わしい。正直、当時は小沢氏の息のかかった議員の影響力が強く、その当時の議論であまり支持したくない政策を押し切られ、これから党内基盤が替わってきたら巻き返しを図ろうと考えていたのではないか?
 民主党の議員の多くが、マニフェストが地雷になり、こんなに手足を縛られるものであるというイマジネーションがなかったのであろう。党首や執行部が替われば変更はできるくらいに考えていたのではないいか。
 また民主党政権発足直後から、読売新聞を筆頭にマニフェストの修正を迫る論調を展開したのは記憶にあるだろう。そして消費税増税に関してはほとんどのマスコミが公約に書いていない増税民主党政権に迫った。マスコミ自身が「公党が国民に対して行った約束」を重要視していないのである。それは財界団体などの圧力団体も同じである
 マスコミが1の理由ばかり強調するのは3の理由を隠すため、民主党の自己反省で1の理由ばかり強調するのは2の理由を隠すためである。

自民党はできもしない約束はしないだろう。しかし…

 自民党は賢明な政党なので、民主党のようにできもしない約束はしないだろう。よって1が原因による公約撤回リスクは低いと言える。しかし、2、3の要因のリスクはかなりあると考える。
 私は横浜市の郊外に住んでいるが、そこの選挙区の自民党前職のビラには、はっきりTPP推進、公共事業の復活反対と書かれ、前回の選挙で都市部選出の自民党議員が大量落選し、地方選出議員の比率が高くなってしまったために党の体質が変わってしまったとの批判が書かれていた。自民党のTPP反対、国土強靭化はどこまでコンセンサスを得ているかわからないが、反対意見の議員もいて、選挙後に党内基盤がかわったら巻き返しを図ろうと考えている議員も必ずいるだろう。
 マスコミや財界も、自民党が政権を奪還した直後から公約の撤回を迫ってくる可能性が高い。先に言ったとおり、彼らは「公党が国民に対して行った約束」を重要視していないのである。まずTPPの推進と公共事業拡大の見直しを迫ってくるのは明らかだ。今後総選挙に向けて、安倍総裁が対中強硬外交を唱えるとなると、それも槍玉にされ、対中融和外交を進めるよう圧力をかけてくるだろう。
 民主党マニフェストの多くを実現できずに反故にしたのは、甘い見通しのまま、できる可能性が低い約束をしてしたからだという安易な総括が為された結果、自民党なら公約を守るだろうという空気が生まれているが、公約を守ることはそんな簡単なことではない。約束を守れなかった政党は選挙の洗礼を浴びても、「公党が国民に対して行った約束」などどうでもいいと思っている取り巻きは何の咎めもなく跋扈するのであるから。