人口は集中させた方がいいのか、分散させた方がいいのか?

 現在なんとなくコンセンサスを得られているのは以下の2つである。

つまりマクロな部分では分散させた方がいいが、ミクロの部分では集中させた方がいいというのが結論のようだが、その境目はどこか?
もっとも集積の経済的メリットを評価する人は、6大都市圏に「ヒト」「カネ」「モノ」を集中させるべきだと考える(更にアグレッシブな「東京一極集中肯定論」は流石に防災リスクが経済的メリットを上回ると考える人が多いようで、そういった持論を展開する人はお見かけしない。)。だいたい道州制推進論者はこの考え方の人が多い。なんでも都道府県一つは必ずあるようなインフラ整備は費用対効果が悪いので、6大都市に集中投資して、それ以外の県庁所在地はそれらの都市の衛星都市のようにしてしまう考え方だ。
ただこの考え方は政治的コンセンサスを得るのが難しい。道州都に選ばれなさそうな府県の知事及び選出議員は道州制導入に概ね批判的だ。道州制を導入しなくても、大都市以外への投資を抑制するような政策への政策合意は極めて困難だ。
それに準じる政策として、県の中心都市(多くの場合は県庁所在地)への集積をはかる政策が考えられる。だが、これも各県の第2、第3の都市の衰退が顕著になるので難しい。衆議院小選挙区は小さな県でも各県に2〜3あり、各県の第2、第3の都市を選挙地盤としている政治家がいることがこの政策を実現困難にしている側面もある。
更にそれより細かい施策としてよく出てくるのが300基礎自治体30万都市論だ。かつて民主党政権が掲げていた政策がこれに近く、政権交代後暫く見かけなくなったが、最近国土交通省が出してきた構想がこれに近い。
http://www.mlit.go.jp/common/001053052.pdf
第二次安倍政権が重要政策として掲げる「地方創生」も恐らくこの単位が基準になりそうだ。ある程度地方を重視しないと統一地方選挙に勝てないが、地方対策をやり過ぎると有識者やマスコミから「ばらまき」と批判される。妥協点がこのラインであろう。
コンパクトシティの事例でよく名前の挙がる富山市は人口約40万人、青森市は約30万人なので、この政策を先取りしているとも言える。コンパクトシティはコンセンサスを得ていると言われるが、実情は複雑だ。明確に人口集積を抑制しようとしているのはバイパス沿等郊外に新たに市街地化された地域だけであって、平成の大合併で合併された地域、或いはそれ以前、昭和の時代に合併された地域には一定の配慮をしており、それらの地域まで人口を抑制するような政策は現実的には難しい。
国土交通省の政策にように、中心市街地以外にいくつかの小集積地を残し、そこと中心市街地との移動時間短縮するインフラ整備することと引き換えに、その小集積地内でのハコモノ建設を抑制することを理解してもらうという政治取引をするしかないのが現実だ。
コンパクトシティを推進することで、無駄なインフラを作らなくても済むみたいに考えている人には「ちょっと違うのでは?」と感じるだろうが、これが政治的な妥協点だろう

来年6月に迎えるもう一つの消費税危機

消費税が8%に増税されても、すぐに税収が増えるわけではない。多くの企業は毎月消費税の中間納付を行っているが、中間納付の金額は、前期の確定申告額の1/12の金額と定められている。つまり今多くの企業が納付しているのは消費税5%の時代に準拠した金額なのだ。
 消費税増税3%分のお金がどこにあるかと言うと、一時的に企業が預かり金としてストックしていることになる。多くの企業は3月決算を採用しているため、消費税の確定申告は6月初頭になる。最長で14ヶ月以上に渡ってお金が企業にストックされることになる。
 消費動向で消費税増税の悪影響がすぐに出ながら、タイムラグのために国の歳入増に繋がっていないとなると、こんなバカな話があるかということになるが、企業が業績回復に先行して賃金改善をするための財源としてこれを利用するのであれば悪い話ではない。企業は一時的にストックしている預かり消費税を活用して、業績回復に先行して賃上げしろという意見が出てもおかしくないのだが、消費税納付の仕組みがあまり知られていないせいか、そういう意見はお見かけしない。
 ただ、実際には中小企業の多くで預かり消費税の活用が行われていると予想される。中小企業の多くは大企業と比較して業績回復が遅れているが、大手企業が賃上げを行う中で業績回復を待たずして賃上げをしないと社員の離職を招き、ただでさえ深刻な人手不足に追い打ちをかけて人手不足倒産の危機に直面する。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014081602000128.html

 皮肉なことに人件費率の高い事業ほど預かり消費税の額が多い。企業は売上消費税から仕入や支払で発生した消費税を控除した額を納付するが、人件費は非課税のため人件費率の高い事業は控除する額が少ないからだ。
 人件費率の高い産業の代表格である運輸事業に於いては、更に燃料高が経営に追い打ちをかけている。多くの企業が人件費と燃料費の支出増を預かり消費税でしのいでいるのではないかと予想される。
 これらの業界で未だに業績回復のニュースが聞かれない中、来年6月を迎えるといったいどうなるのか?非常に心配である。

私刑が支持されるのも解らなくはないが、割に合わないから止めた方が

 まんだらけの万引き事件を契機に、私刑の是非が俄かに議論されている。まんだらけの店主は別に私刑を望んでいる訳ではなく、万引きの初動は警察に頼らず、自助努力が必要であるという認識と、抑止力を働かせるのが主眼であったと思われる。
 しかし、ネット上に溢れる私刑支持派に祭り上げられてしまったきらいがある。しかし、なぜネット上でここまで私刑が支持されるのであろうか?

私刑が支持される背景

 私刑が一概に支持される訳ではないが、これまでのネット世論を見る限り、刑法への不信が支持の背景にあると考えられる。例えば…

  1. 容疑者が未成年者(匿名の上、刑も軽くなる)
  2. 容疑者の両親に対して(法律上、両親の教育責任などは存在しないのが解せない)
  3. 量刑が低い犯罪(性犯罪や児童虐待など、社会の求める量刑が法律より高いもの)

1.はつまり、警察が未成年であることを理由に容疑者の名前を公開しないのは解せない。だから俺が調べて公開して、未成年の容疑者にダメージを与えることで義憤を果たそうとするモチベーションが生じる。
2.は日本では犯罪者の両親の教育責任を問う考えが根強く、西洋由来の近代法では想定されていない概念のため齟齬が生じている。そこで容疑者の両親の名前や個人情報を公開することで、社会的ダメージを与えることでダメージを与えようと言うモチベーションが生じる。
3.は社会が女性や子どもの権利をより重視(社会が左傾化した)するようになったが、法律が追い付かず、量刑が社会的期待より低くなっていると考えられる。実刑を補完するために、容疑者の個人情報を公開し、出所後も長くダメージを与えようと言うモチベーションが働く。
 刑法が普遍性を追求するのに対し、現在の日本がそれより保守的であったり、進歩的であるために齟齬が生じ、私刑執行人の存在価値が生まれる。

私刑はリスクが高い

 デビ夫人が、大津市の中2男子生徒のいじめ自殺に絡み、ブログに加害生徒の母親と思わせる女性の写真を無断掲載したのは記憶に新しい。結局この女性は事件に無関係で、デビ夫人は名誉棄損で訴えられることになった。結局この件は和解したが、デビ夫人なら何百万円もの和解金は端金であろうが、一般ピープルが訴えられたら堪ったものではない。
 そもそも、素人には警察のような捜査能力はなく、ネットに散乱する怪情報を取捨選択して、死刑執行のネタ作りをする程度のことしかできない。このような環境では誤認死刑を行ってしまうリスクは高く、それで賠償リスクを負うのは余りにもバカバカしい。
 いくら動機が義憤であろうが、ネット私刑の執行人の正義感が強かろうが、民事訴訟ではそんなことは酌量されない。割の悪い私刑に素人が手を出すものではない。

「安倍辞めろコール」に対する違和感

集団的自衛権行使に関する憲法解釈変更が閣議決定された。このタイミングで各地でデモが行われ「安倍辞めろ!」というシュプレヒコールが叫ばれたようだ。ネット上でも「安倍辞めろ!」という書き込みが目立つ昨今である。
私も安倍政権はさらさら支持していないが、どうもこの「辞めろコール」には違和感を拭えない。彼らは、震災直後に「菅辞めろ!」コールをし、菅より脱原発色の弱い野田政権を招き、さらに原発再稼働問題で「野田辞めろ!」コールをし、今の安倍政権を招いたのだ。つまり逆サイドから政権批判をしていた勢力にまんまと利用されてきたのである。
今回も、「辞めろ、辞めろ」コールをして更に悪い政権成立を後押ししてきた反省がどこにも感じられないのだ。
彼らは、「安倍政権は最悪だ。これ以上最悪の政権が樹立することはあり得ない。」と言うかも知れないが、本当にそうだろうか?
確かに、安全保障政策や歴史認識では、安倍政権は戦後最右翼で、これより極端なリーダーは出てこないかも知れない。ただ財政政策ではどうか?この分野では安倍総理タカ派ではない。場合によっては、増税と歳出削減を同時進行させる極端な財政規律派のリーダーが出現する可能性はある。
「辞めろ!辞めろ!」は言いが、彼らには、本当にこれ以上最悪のリーダーが出現する可能性がないのか、自問しながらデモに参加したり、政権批判をしてもらいたい。

自民党が携帯電話税を検討するわけ

 早い話、携帯電話会社の有力2社、AUとソフトバンク民主党色の強い企業で、おもしろくないからだ。KDDI筆頭株主は京セラで、京セラの稲盛氏は民主党支持経済人の筆頭とも言うべき御仁。ソフトバンクは秘書室長の嶋聡(元民主党衆議院議員)が政界窓口となり、孫社長民主党政権下で再生可能エネルギー関連法の成立に影響力を発揮した。今でも脱原発を主張し、自民党にとって邪魔な経済人の一人である。
  政権復帰後の自民党は、わかりやすく言えば恐怖政治だ。JAL対ANAの対立のように、民主党の色のついた企業が不利益になるような政治介入を露骨に行い、経営者に非自民政党に肩入れしたらどんな目に遭うか知らしめているのである。
 他の例で言えば、軽自動車税もそうだ。スズキの鈴木会長は、以前から衆議院議員選挙、浜松市長選挙、静岡知事選挙で自民党公認、支持候補の対立候補を支援することが多かった。また菅元総理が浜岡原発を停止したことを支持し、その後の再稼働に反対する姿勢を示すなど、何かと自民党を逆なでする発言や行動が多い。軽自動車税増税は、鈴木憎し税だと言っても過言でない。
 しかし、携帯電話税や軽自動車の増税は消費者の負担だ。JAL対ANAのように自民党がANAに肩入れしたところで消費者が一方的に不利益を被る訳ではないケースとは異なる、とんだ迷惑話である。

国内世論のフラストレーション

 総理の靖国参拝慰安婦問題で、国際的に日本の立場が悪くなる一方、国内世論では優勢になりつつあるという現象が生まれ、そのギャップが高まれば高まるほど世論のフラストレーションが溜まる。

 国内保守派のフラストレーションを棚卸ししてみると、こんな感じだろうか。
保守派のフラストレーションの要因

  • 日本政府が有効なロビー活動を展開できず、外交で負け続けている。
  • 安倍政権は公式には慰安婦問題の政府見解は変えていないので、外務省のロビー活動はあくまでも、日本は戦後真摯に反省をしてきたという内容のもの。
  • 勇んだ発言をする政治家や有識者がいれば拍手喝采したいが、外交面では地雷原に丸腰で突っ込んで爆死するような惨状で、余計にいらいらする。
  • 安倍総理を支持しているので、政府は批判できない。
  • 米国には憤りを感じているが、共和党政権になれば米国のスタンスも変わるのではという希望を持っており、今すぐに反米にはなれない。
  • とりあえず一番弱い国内のサヨクを叩いてフラストレーションを紛らわすが、外交面での打開策が見えないのでイライラが収まらない。

 日本のロビー活動が後手に回っているのは、外交方針が不明確だからだ。安倍総理戦後レジームの見直しを掲げながら、具合的には何も行っていない。外務省は従来の外交方針に従って日本の立場を説明するしかない。外務省の従来の方針というのは、過去はしっかり謝って未来志向の関係を築くというものだが、その方針自体安倍総理やその支持者に良く思われていないので、あまり突っ込んだ活動ができないのだ。
 さりとて民間のロビー活動も盛り上がらず、たまにやっても幸福の科学のように勝算がないまま地雷原に突っ込むような活動で戦果は上がっていない。
 多くの保守派は、安倍政権が近々河野談話を見直し、「慰安婦は捏造だ」というロビー活動を展開してくれると思っているのか?よくわからない状態で、みなイライラして時間だけが過ぎているような気がしてならない。
 対する国内左派はどうなのか?実はこちらもイライラしている人が多いような気がする。それを棚卸しするとこんな感じだろうか。

左派のフラストレーション

  • 「国内左翼は中韓の手先」といったプロパガンダが効力を持ち、国内世論の支持を失っている。

(元々は右派を批判するために、中韓からの批判を持ち出したつもりが、逆に格好の批判材料に利用されて自滅した。)

  • 諸外国の意見は別として、かつては国内問題として靖国神社を批判する意見がかつては存在感を持っていたが、左派自体が原点を見失っている。
  • 外交面で保守派は自爆しているが、それによるフラストレーションの高まりが国内世論を更に右傾化させいて、国内世論においてはより劣勢になっている。
  • 米国の圧力を利用する手もあるが、その他の問題で批判することの多い米国を利用するのは気が引けるし、利用しても右派からダブスタだと批判されるだけ。
  • 安倍総理の右傾化を懸念する穏健保守派と連携する手もあるが、左派に理解のある保守派との連携は民主党政権で懲り懲り。はっきり左派色を鮮明にする人しか信用しないと言う空気は左派内にある。

 という感じで、国内世論はオールアンハッピーで、フラストレーションが溜まっている状況だ。
 もっとも国内世論のフラストレーション等諸外国は考慮してくれない。ギリシャ債務危機の際、ギリシャ国内世論のフラストレーションが溜まって暴発寸前であっても、ドイツを初め諸外国は決して圧力を弱めなかった。
 諸外国なんてのはそんなもんだ。あくまでもその国の為政者に国民世論を適当にあしらうスキルを求め、そのスキルの高さが政治家の国際的評価になる。
 日本にそのようなスキルのある政治家は見当たらず、当面は国民世論のイライラは続くのではないか。
 

集団的自衛権行使に関する日米の祖語

 この問題はアメリカが日本に対して強く望んでいる課題であり、安倍カラーと言われる政策の中でも、戦後レジームの見直しや靖国参拝などアメリカの機嫌を損ないかねない問題と異なりアメリカと利害が一致しているため、安倍総理にはやりやすい政治課題だと言える。アメリカにとっては、安倍総理にいろいろ問題があっても、今まで困難と思われたこの政策課題を推進できそうな総理が誕生した意義は大きく、そのために当面は安倍政権を支えると考えられる。しかし目標は一致しても、そのプロセスで日米の思惑に大きなギャップが存在している。
 アメリカはもはや世界の警察的な仕事は財政的に続けられない。極東アジアに関しては、安定と在日米軍の役割の一部を日本に肩代わりしてもらいたいと思っている。日本に集団的自衛権の行使を求めるのはそのためだ。
 一方、日本にとってのメリットは、はっきりとは解らない。仮に日本が軍拡すべきと言う立場の人であれば、米国のお墨付きで行う軍拡なので、周辺国が文句言おうが堂々と軍拡ができるメリットがあると答えるだろうが、明らかに財政負担となる軍拡がメリットと言えるかは議論が分かれる。
 安倍総理は、中国の脅威を自分の支持への追い風、更には集団的自衛権の行使への国民の理解のテコに利用としており、その戦略は功を奏している。ただ、アメリカは在日米軍の役割の一部を日本に肩代わりさせること以上に極東アジアの安定を期待しており、安倍総理集団的自衛権行使を目指すためであったとしても、極東アジアの不安定化を助長するような行為は看過できない。
 更にアメリカにとって気になるのは朝鮮半島情勢である。在日米軍の役割は、日本を防衛する以上に朝鮮半島有事の対応にある。日韓関係が悪化したまま集団的自衛権行使が可能になっても、実戦時に日韓の国民世論が作戦の足を引っ張り有効な連携が取れなくなるリスクがある。日本では、集団的自衛権の行使を支持する層と韓国を嫌う層が近似しており、安倍総理を始め政府関係者も、集団的自衛権の行使で自衛隊が韓国軍を支援する可能性が高いことを殆ど説明しないままこの法案を俎上に載せようとしている。アメリカもいくら集団的自衛権行使が可能になっても「実際は機能しませんでした」ではお手上げである。
 後は日米の我慢比べだろう。安倍政権が最終的に集団的自衛権行使を可能にし、その次の政権が極東アジアの安定化に邁進すればアメリカは文句を言わず評価するかも知れない。一方、安倍総理があまりに極東アジアの安定にリスクとなれば、集団的自衛権行使を可能にできる総理との評価を改めて非協力的姿勢に転じるかも知れない。