新自由主義とネットワークビジネスの親和性

 ネットワークビジネスの仕組みを簡単に言うと、富の累進傾斜配分である。成果に比例した単純歩合でなく、成果の小さな人への成果配分はゼロに等しく、自己消費による出費の方が多く収支はマイナスで、成果を出した人に傾斜配分で利益が配分される仕組みである。だからネットワークビジネスは洗剤や健康食品といったさほど単価の高くないものを流通させても、一部の人は高い報酬を得られるようにできている。
 累進課税社会民主主義の象徴であるとすれば、富の累進配分は新自由主義の象徴とも言える。
 富の累進傾斜配分というのは90年代の賃金制度は90年代に流行して、例えばタクシーの運転士の賃金制度にもその思想が投影された。売上が一定水準に行かない運転士は働いても手取りがゼロになる(いわゆる足キリ)一方、水揚げのいい運転士はバック率が上がるような制度だ。この制度も規制緩和でタクシーの台数が増えるのと相まって台辺り売上が低下、タクシー運転士の給与水準を大幅に下げることに貢献した。今では国土交通省は累進歩合賃金制度を禁止する通達を出すに至っている。
 90年代は私もまだネオリベマンセーだったので、自己責任といった言葉をポジティブに捉えられていた。そしてやった人にやっただけの成果が顕れるネットワークビジネスの話は結構魅力的に聞こえた。何度かそっち系のセミナーに動員され「自己責任」という言葉が飛び交い、成功するために目をギラギラさせている人たちのいる空間はそれほど違和感を感じなかったように記憶している。
 昨今、民主党前田雄吉議員がそっち系の企業から献金を受けたとか、その業界寄りの国会質疑をしたということが問題となっている。健全なネットワークビジネスを育てる議員連盟のメンバーを見ると、旧自由党出身者が多い。かつて自民党より新自由主義色が鮮明だった自由党ネットワークビジネス擁護の立場を取るのは不思議なことではない。民主党と合併して、党首だった小沢一郎民主党の代表となって新自由主義路線から決別しても、ネットワークビジネス寄りの立場はそのままだったようだ。もっとも前田議員などの主張を見ると、今でも新自由主義的である。この人はボスの小沢一郎新自由主義から離れても、主義主張を変えておらず、おそらくネットワークビジネスに対してガチンコに擁護する思想を持っているのであろう。
 ネットワークビジネスをなぜ法律で禁止できないのかと考えている人も多いと思うが、実は非常に難しい。いろいろ厳しい規制をかけているが、それをクリアしていれば合法となるのが現状である。非常に消費者トラブルの多いビジネスモデルであるから、これを規制すべきという考え方もあるが、それに反対するのも新自由主義的思想である。消費者の自己責任を重視し、法律による規制を嫌うのが新自由主義である。新自由主義者は消費者トラブルが多い等の理由でこんにゃくゼリーを規制するような発想も嫌う。
 前田議員がネットワークビジネスの擁護者であるのは昔から知られていたことだが、この時期の問題が浮上するのは選挙が近い証拠だ。ネットワークビジネスそのものが違法でないので、前田議員のクビを取るのは難しいが、与党からすればただ漠然と民主党に対して悪いイメージを植えつけることには成功したので御の字であろう。民主党は愛知県で全勝するとの予想もあったが、この人が網に引っかかったのでそれはなくなった。まあせめて候補者の差し替えを行った方がいいであろう。